地球上全体、一つの大陸、あるいは一つの山塊や、その中の一つの谷と、その空間的スケールはさまざまであっても、ある限定された地理的空間に見いだされる植物の種のまとまりを植物相(フローラfloraともいう)と呼ぶ。一般に、植物は気候などの自然環境や地域の自然地史(隔離など)により地域において種分化の程度が異なり、分布はきわめて不均一である。たとえば、温帯と熱帯では分布する植物の種に大きな相違のあることは一目瞭然であるし、地史的に長い間隔離されたオ-ストラリアなどでは独特のフロ-ラを示す。世界を植物相にしたがって区分けしたのが植物区系(下図)であり、大きく分けると熱帯と温帯(全北区系界)に大別される。熱帯は更に熱帯アメリカの新熱帯区系とアジア、アフリカの熱帯の旧熱帯区系に分けられる。それぞれが更にいくつかの植物区系に分かれるのであるが、わが国は南西諸島(東南アジア区系に属する)を除く大半が全北区の中の日華区系に属し、わが国の植物は中国、ヒマラヤの暖帯の植物と密接な関連がある。またこの地域は世界でも最も植物相の豊かな地域の一つである。
一方、植物相としばしばセットで捉えられるものに植生
(vegitation)がある。これは複数の植物種の組み合わせで存在する生態系のことを指す。通例、植生は、森林であれば高木層、小高木層、低木層、草本などのように重層構造をなし、更に各層のおける種の占有率により群落として識別される。自然環境保全の観点からは群落の保全も個体の保全におとらず重要である。