生薬のほとんどは乾燥品であるが、ここで一括規定することにより、各条の基原では「乾燥したものである」ことが省略されている。繁用漢方処方である小柴胡湯の構成生薬であるショウキョウは、正統漢方では乾燥品ではなく食品としても流通するいわゆるヒネショウガを用いる。総則に「別に規定するもののほか」とあるが、ショウキョウに生品を用いることに対する記載はないが、この表現から生品を用いることも容認されていると見られる。因みに、現今の医療用漢方製剤で用いられるショウキョウは乾燥品(乾生姜)である。ショウキョウは、漢名の生姜が示すように、本来は生品(ヒネショウガ)を用いるのが通例であるが、薬局方の正條品が乾燥品となったのは、明治維新で漢方医学が廃止され、初版薬局方で漢方生薬がことごとく排除された複雑な歴史的背景がある。ショウキョウは、例外的に収載されたのであるが、西洋の薬局方に収載されているGinger(ショウキョウと基原は同じ)に倣って乾燥品としたのであり、決して漢方薬と目されていたわけではない。第十五改正版からカンキョウ(乾姜)が新規収載され、さらに事情が複雑となった。カンキョウはショウガの根茎を湯通しあるいは蒸して乾燥したものであって、漢方薬においては薬効の上にも差が出るといわれ、ショウキョウとは区別されている。しかし、乾生姜と変わらないとする説もあって、まだ結着を見ない。
生薬は通常風乾により乾燥するが、近年では温風で乾燥仕上げをすることが多くなった。これに対して局方では60°C以下という枠をはめているが、精油含有生薬に関しては精油が揮散しないようなるべく低い温度で乾燥(風乾が望ましい)するよう努めねばならない。また、各生薬により最適な乾燥条件は異なる。例えば、ジギタリス(第十五改正から削除された)は薬効成分の強心配糖体が自然乾燥時では酵素分解を受けて含量が減るので、温風乾燥が望ましい。逆に、アマチャでは主たる甘味成分は配糖体の酵素分解で生成するのでできるだけ時間をかけて乾燥し熟成させるのが望ましい。