一般に医薬品は錠剤に代表されるように製剤として市場に流通する。医薬品の製剤に関する規定は日本薬局方製剤総則に記述されているが、生薬の中にもチンキ、流エキス、エキス剤なる生薬特有の製剤があり、各条に別に収載されている。また、シロップ剤など一般の医薬と同様の製剤もある。粉末生薬(細末としたもの)は一般医薬でいう散剤に相当するが、別に各条に規定されている(生薬総則第2条)。
チンキ剤は、通例、生薬をエタノール又はエタノールと精製水の混液で浸出して製した液剤である。
薬品名 | 構成薬品及び製法 | 薬 効 |
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アヘンチンキ | アヘン末+35 v/v %エタノール | 止瀉薬、鎮痛、鎮咳 |
苦味チンキ | トウヒ、センブリ、サンショウの粗末+70v/v %エタノール | 苦味健胃薬 |
トウガラシチンキ | トウガラシ+エタノール | 局所刺激薬 |
トウヒチンキ | トウヒ粗末+70 v/v %エタノール | 芳香健胃薬 |
ホミカチンキ | ホミカ粗末+70 v/v %エタノール | 苦味健胃薬 |
流エキス剤は、生薬の浸出液で、通例、その1ml中に生薬1 g中の可溶性成分を含むよう製した液剤である。
薬品名 | 構成薬品及び製法 | 薬 効 |
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ウワウルシ流エキス | ウワウルシ粗末+熱精製水 | 尿路防腐薬 |
キキョウ流エキス | キキョウ粗末+25v/v %エタノール | 鎮咳、去痰薬 |
コンズランゴ流エキス | コンズランゴ中末+精製水-エタノール-グリセリン(5:3:2)混液、精製水-エタノール(3:1)混液 | 芳香性苦味健胃薬 |
エキス剤は、通例、生薬の浸出液を濃縮して製したもので、次の2種類がある。
(i) 軟エキス剤
(ii) 乾燥エキス剤
薬品名 | 構成薬品及び製法 | 薬 効 |
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カンゾウエキス | カンゾウ細切の水冷浸液にエタノールを加えた軟エキス | 鎮咳、去痰、消炎鎮痛薬 |
カンゾウ粗エキス | カンゾウ粗末の熱水抽出エキスを蒸発乾固した乾燥エキス | 同上 |
ホミカエキス | ホミカ粗末+ヘキサン→脱脂後、エタノール、酢酸、精製水の混液、70v/v %エタノールより浸出して製した乾燥エキス | 苦味健胃薬 |
ロートエキス | ロートコン粗末+70v/v %エタノール又は水より製した軟エキス | 鎮痛鎮痙薬 |
シロップ剤は、白糖の溶液又は白糖、そのほかの糖類若しくは甘味剤を含む医薬品を比較的濃稠な溶液又は懸濁液などとした内容液剤である。シロップ剤は広く各種の医薬に製せられるが、生薬では少ない。
薬品名 | 構成薬品及び製法 | 薬 効 |
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セネガシロップ | セネガ中切+10v/v %エタノール、白糖、精製水 | 去痰薬 |
トウヒシロップ | トウヒチンキよりシロップ剤の製法により製したもの | 芳香健胃薬 |
散剤は、医薬品を粉末状に製したものである。粉末生薬は全てこれに相当するが、ここでは複方ないし他の生薬製剤を粉末化したものを取り上げる。
薬品名 | 構成薬品及び製法 | 薬 効 |
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アヘン散 | アヘン末、デンプン又は適当な賦形剤 | 止瀉薬、鎮痛鎮咳薬 |
アヘン・トコン散 | アヘン末、トコン末、デンプン又は適当な賦形剤 | 鎮痛鎮痙薬、止瀉薬 |
複方ダイオウ・センナ散 | センナ末、ダイオウ末、イオウ、酸化マグネシウム | 健胃薬、瀉下薬 |
ホミカエキス散 | ホミカエキス、デンプン、乳糖 | 苦味健胃薬 |
ロートエキス散 | ロートエキス、デンプン、乳糖 | 鎮痛鎮痙薬 |
そのほか、ゲンチアナ重ソウ散などのように生薬以外の医薬品を混ぜて製した生薬製剤はすこぶる多い。
薬品名 | 構成薬品及び製法 | 薬 効 |
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アンモニア・ウイキョウ精 | アンモニア水、ウイキョウ油、エタノール | 去痰薬 |
キョウニン水* | キョウニンを圧搾後、水を加えて水蒸気蒸留して得た留液にエタノール、精製水-エタノール混液を加えて製する | 鎮咳去痰薬 |
ハッカ水 | ハッカ油+精製水 | 矯味矯臭薬 |
ロートエキス・タンニン座剤 | ロートエキス、タンニン酸、カカオ脂又はその他適当な基剤 | 痔疾薬 |
*現在では合成マンデロニトリルを精製水-エタノール混液(3:1)を加えて製することが多い。