「和漢古典植物名精解」出版の基本的コンセプト

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 本書は、わが国最古の歌集『萬葉集』、『出雲國いずものくに風土記ふどき』ほか各風土記と『古事記』・『日本書紀』等を含む上代典籍ならびに正倉院しょうそういん文書もんじょ・木簡などの上代の歴史資料のほか、平安〜室町・江戸期の古典に登場する植物名(和名・漢)を収録し、通説(定説)にとらわれず、和漢の関連文献を詳細に解析して該当する植物種を考定したものである。古典植物名の基原きげんを解明する試みは新しいものではなく、仙覚せんがくほか平安・鎌倉期の歌学者や、江戸期にあっては契沖けいちゅう賀茂かもの真淵まぶちなど多くの国学者が広く手がけるなど、国文学史上において常にもっとも関心度の高いトピックスであった。『萬葉集』における古典植物古名には、漢名表記と万葉仮名による和名表記の二系統があるが、中国から本草の体系を受容したことに伴う漢名・和名の対照化作業が中途であったことを示唆し、一部を残して大半は『本草ほんぞう和名わみょう』・『和名抄わみょうしょう』・『新撰しんせん字鏡じきょう』・『醫心方いしんぽう(いずれも十世紀に成立)に集大成され、漢名に対して和訓がつけられた。この和訓はわが国古来の古名もあるが、中国本草からもたらされた漢名に対して新たに創出されたものも少なからず存在する。漢名は“本草学名”ともいうべき存在であったから、その基原を解明する基本的手法としては当該の本草ほか漢籍古典の記述を詳細に解析すればよいことになる。今日では江戸後期の本草家小野おの蘭山らんざんの『本草ほんぞう綱目こうもく啓蒙けいもう』や牧野富太郎ほか著名な植物学者が加わって編纂された『國譯こくやく本草ほんぞう綱目こうもく』による考定の結果をもって半ば定説と考えられている感があり、古典植物名を解明する試みは至って低調で、近年では拙著『万葉まんよう植物しょくぶつ文化誌ぶんかし』のほかは類書がほとんど見当たらない。しかし、わが国の上代に由来する漢名はすべて中国六朝時代の『本草經ほんぞうきょう集注しっちゅう陶弘とうこう景注けいちゅうおよび唐代の『新修しんしゅう本草ほんぞう蘇敬そけいちゅうに準拠しているはずで、明代末期の『本草綱目』の李時りじ珍注ちんちゅうを基にした小野蘭山や牧野富太郎の考定に問題があるのは一目瞭然のはずである。というのは、もり立之りっしそん 星衍せいえんら日中を代表する考証家が李時珍注を酷評している事実があるからだ(詳細は序章を参照)。以上の経緯をもって、本書ではわが国に伝存する『新修本草殘巻十一巻』や『重修 じゅうしゅう政和せいわ經史けいし證類しょうるい備用びよう本草ほんぞう晦明軒かいめいけん刊本かんぼんに引用された陶弘景注・蘇敬注の逸文を優先して解析し、李時珍注は一部を除いて植物名考証の参考程度に留めている。序章で古典植物名の基本的解明戦略について詳述しているように、本書における考証は文系理系の壁を越えた学際的視点に則り、多次元的かつ主観を排し客観に解析することを特徴とする。具体的なプロセスとしては、和漢の典籍各種を博引旁証して民族植物学的・民俗学的情報を発掘し、さらに各古典に記述された植物の情景を自然科学的知見でもって客観的に分析した結果を植物種の考定に反映するというもので、理系の研究では当たり前のことであるが、これまでの類書ではたとえ複数の証拠があったとしても、そのうちもっとも確かなものだけを取捨選択してきたように思われる。それが他研究者による研究の参入の障害となったと推定され、結果的に研究そのものの深化を阻害することになったのではないだろうか。
 以上述べた研究手法を適用して得られた新知見は非常に多く、まずそのもっとも象徴的なものとして「わらび」を第1章に挙げたのは和漢の古典文学・古典資料の博引旁証による研究成果がもっとも顕著な形で得られたからにほかならない。ここに書き尽くすことはおよそ不可能であるが、要約すれば、江戸期以前にいう「わらび」は多くの用例の詳細な解析からことごとくゼンマイであり、これまでの通説を大きく訂正する必要があることが明らかとなったのだ。そのほか、春の七草の構成が典籍によって異なる経緯なども、旧来の国文学の研究手法では解決は困難であったと思われる。国文学における「さくら」の異名(サクラ・ハハカ・カニハ)の区別や「すすき」の異名(オバナ・ススキ)の発生の経緯もこの研究手法による詳細な民族植物学的・民俗学的解析で初めて明らかになったといって過言ではなく(第2章・3章・12章)、古代人が現代人とはまったく異なる種認識でもって植物を区別していたことが明確となったのである。本書は膨大な古典の用例を挙げ、漢籍詩文(100首以上)などを多く引用して和漢比較文学の観点から詳細に解析しているのも特徴の一つである。ただし、いずれの古典文学も文芸作品ではなく、古典資料として扱い、それによって客観的視点に則った解釈が可能となったことを強調しておく。また、本書で引用する典籍は原典(原本あるいは影印)を基本とするので基礎資料としての価値も高い。本書の目的は、前著二書『万葉植物文化誌』および『歴代れきだい日本にほん薬局方やっきょくほう収載しゅうさい生薬しょうやく大事典だいじてん』でカバーされなかった古典植物名を広く収録し、各種典籍に登場する植物に対する正しい理解の便を図ることであるが、時に古典医書の記述まで引用するなど、文理の壁を越えた学際的視点を貫いているのを特徴とする。したがって本書の知見を取り入れることによって、各古典の植物の記述はより当該の時代背景を反映した解釈が可能となり、その結果としてわが国の植物文化について理解が深まる点で多大な意義があると考えている。

目  次

 序 論 和漢植物古名の解明戦略概論
 本 論 古典に登場する植物名の基原・字義と由来
 第1章 古典の「わらび」はゼンマイであってワラビではない!
  第1節 ワラビでは矛盾がある『源氏物語』『枕草子』の「わらび」
  第2節 ワラビでは意味が通じない平安・鎌倉期の和歌の「わらび」
   2-1 ゼンマイとすれば簡単に解ける「わらび」の語源
   2-2 ワラビでは理解できない「わらびのほどろ」の意味
   2-3 ゼンマイを模したわらび手紋てもん蕨手わらびて
   2-4 「わらび」の花を暗示させる和歌:花をつけると考えられたゼンマイ
  第3節 ほかにもある「わらび」の名をもつ植物
  第4節 混とんとするワラビ・ゼンマイの漢名
  第5節 ゼンマイであったはずの「わらび」がワラビに転じた経緯
   5-1 江戸時代になって救荒植物として登場したワラビ
   5-2 「わらび」の名前のすり替えは貝原益軒の勘違いから始まった
  第6節 意外に新しい「ぜんまい」という名
  第7節 志貴皇子の教養の深さをアピールする万葉の「さわらび」
 第2章 古代人には難しかったアシとオギの区別
  第1節 豊葦原瑞穂国:日本文化の基層をなすアシ
   1-1 一つだけではない「あし」の漢名
   1-2 「あしの根のねもころ」:アシの根はつながっている
   1-3 「葦が散る」の葦はアシではない!
   1-4 『萬葉集』にみるアシの民族植物学的背景
    ①古くから生活必需品であったアシ
    ②アシは大陸由来の僻邪植物であった
   1-5 アシの名の由来は?
  第2節 自然界では共存するオギとアシに古代人は気づいていた
   2-1 古典では区別があいまいなオギとアシ
   2-2 オギといえば秋風と音
   2-3 オギでもアシでもない伊勢の浜荻
 第3章 同物異名:ススキとオバナの名の由来
  第1節 「すすき」と「をばな」の二系統がある万葉のススキ
  第2節 「はだすすき」と「はなすすき」は同じか?
  第3節 「すすき」と「をばな」が同物異名である証拠はあるか
  第4節 「をばな」と「をぎ」の語源は同根である
  第5節 「すすき」の名は野焼きに由来する!
  第6節 焼け野を象徴する「すぐろのすすき」
  第7節 古典から読み解く“はてなきカヤ原”であった武蔵野
 第4章 日本固有種ツバキに二つの漢名がつけられた背景
  第1節 『萬葉集』に二系統ある「つばき」の漢名:椿と海石榴
   1-1 「つばき」と訓ずる椿・海石榴
   1-2 本草にいう椿ちんはツバキではない!
   1-3 「玉つばき」
  第2節 時代とともに揺らぎ始めた「海石榴=ツバキ」の認識
   2-1 唐皇帝に贈呈され、渤海の使節が所望した海石榴油はツバキ油である
   2-2 わが国でも平安以降に揺らぎ始めた海石榴の基原認識
   2-3 中国の定説では海石榴はザクロ(石榴)の異名である
  第3節 石榴ざくろでは矛盾する六朝詩・唐詩の海石榴(海榴)
   3-1 六朝・江総「山庭春日詩」(『陳詩』巻八)
   3-2 随・楊広「宴東堂詩」(『初學記』巻二十四)
   3-3 唐・皇甫曽「韋使君宅海榴詠」(『全唐詩』巻二一〇)
   3-4 中国では石榴が春に咲くと認識されていた?
   3-5 唐・李白「詠鄰女東窗海石榴」(『全唐詩』巻一八三)
  第4節 トウツバキ(山茶)の登場で微妙となった海石榴の地位
  第5節 中国で海石榴の基原があいまいとなった背景
  第6節 ツバキは道教的ユートピアのシンボルか!
  第7節 「つばき」の語源について
   7-1 朝鮮語の동백(tsunbaick)の語源は日本語のツバキである
   7-2 これまでのツバキ語源説
   7-3 「つばき」の語源は神具とする枝葉に由来する
 第5章 一種だけではなかった神木「さかき」
  第1節 なぜ「さかき」と呼ぶのか
  第2節 サカキの自生しない地域で代用とされるヒサカキ
  第3節 「さかき」から分化独立した神木各種
   3-1 「しきみ」(シキミ科シキミ) (附)葉に文字を書く多羅葉
   3-2 「をがたまのき」(モクレン科オガタマノキ)
   3-3 「ゆづるは」(ユズリハ科ユズリハ):ぞんざいな考定で充てられた漢名交譲木
 第6章 古典に登場する口に苦き薬木
  第1節 強い苦味をもつ薬木「あふち」(センダン科センダン)
   1-1 僻邪植物であった「あふち」
   1-2 平安末期に激変した「あふち」の植物文化的地位
  第2節 薬木「あふち」の代用に選抜された「にがき」(ニガキ科ニガキ)
  第3節 漢方薬にも染色剤にもなる「きはだ」(ミカン科キハダ)
 第7章 古典に登場する口に苦き薬草
  第1節 目が眩むほど苦い「くらら」(マメ科クララ)
  第2節 強烈な苦味のあるリンドウ科植物:センブリとリンドウ
   2-1 センブリの漢名は二つある?:胡黄連コオウレン當藥トウヤク
   2-2 もともとはスイバであった当薬トウヤク
   2-3 リンドウの介在で当薬の名がスイバからセンブリに転じた
   2-4 センブリおよびリンドウの古名と語源考
   2-5 元祖当薬のスイバおよびその近縁種ギシギシの語源考
 第8章 僻邪に利用された植物各種
  第1節 「あやめぐさ」(ショウブ科ショウブ)
  第2節 「うけら」(キク科オケラ)
   2-1 鎮魂祭に献上された神仙の霊薬白朮ビャクジュツ
   2-2 わが国民間の習俗に深く関わる白朮:うけらの神事と屠蘇酒とそしゅ
   2-3 古代日本人のこまやかな感性を詠んだ万葉の「うけら」の歌
  第3節「もも」
   3-1 中国のモモの木信仰−桃符と桃板−
   3-2 モモが関わるわが国の習俗
   3-3 『萬葉集』ほか古典文学におけるモモ
   3-4 わが国在来の「もも」:「やまもも」(ヤマモモ科ヤマモモ)
   3-5 「もも」の語源について
  第4節 「よもぎ」(キク科ヨモギ)
 第9章 荒れた家屋を象徴する「むぐら」
  第1節 古典の「やへむぐら」はヤエムグラではない
  第2節 貧乏葛の異名がありながら「むぐら」とは呼ばれなかったヤブガラシ
  第3節 「むぐら」の語源について
 第10章 「かほばな」と呼ばれる植物
  第1節 必ずしも特定の植物を意味しない万葉の「かほばな」
   1-1 草原に生える「かほばな」:キキョウ科キキョウ
   1-2 水辺に生える「かほばな」:アヤメ科カキツバタ
   1-3 砂地あるいは砂州に生える「かほばな」:ヒルガオ科ヒルガオ
   1-4 ヒルガオの漢名・古名とその釈解
  第2節 時代によって変わる「あさがほ」の認識
   2-1 秋の七草の「あさがほ」はキキョウ科キキョウである
   2-2 「あさがほ」がキキョウからアサガオに転じたのはいつか?
   2-3 キキョウの漢名および和名の釈解
   2-4 「あさがほ」の最有力候補であったムクゲ(木槿)
   2-5 万葉の「あさがほ」論争の総括
  第3節 「ゆふがほ」とその類縁植物ヒョウタン・フクベ:複雑な漢名の相関
 第11章 古典の香り
  第1節 『萬葉集』で詠まれた香りの歌:ウメ・タチバナ・マツタケ
  第2節 「くさのかう」とはどんな香草か?
   2-1 平安文学に登場する「くさのかう」と芸香(ウンコウ)
   2-2 芸香とヘンルーダの複雑な相関
   2-3 「くさのかう」はミカン科マツカゼソウではない
  第3節 絢爛たる平安文化を象徴するお香各種
   3-1 甲香コウコウ 3-2 丁子香チョウジコウ 3-3 蘇合香ソゴウコウ藿香カッコウ 3-4 白膠香ビャクキュウコウ
   3-5 甘松香カンショウコウ 3-6 沉香ジンコウ 3-7 白檀香ビャクダンコウ
  第4節 『萬葉集』に登場しない香木:クスノキ科クスノキ
 第12章 意外と知られていない古典のサクラ
  第1節 サクラの古名は三つある
   1-1 占卜材たるサクラを表す古名:「ははか」
   1-2 サクラとカバノキの意外な相関関係を象徴する古名:「かには」
   1-3 サクラの花に特化した古名:「さくら」
  第2節 上代人もこよなくサクラを愛していた
   2-1 サクラは穀霊の宿る木か?
   2-2 意外にも万葉人にとって身近ではなかったサクラ
   2-3 万葉時代の貴族の屋敷に植栽されたサクラの意外な意義
   2-4 散る花の美学:サクラとウメの違い
    ①中国の落梅の詩と万葉歌との相関
    ②サクラ散る(落花)歌と落梅歌の違い
 第13章 飯を盛るのに利用された「かしは」
  第1節 松柏の柏は常緑裸子植物であってカシワではない
  第2節 柏につけられた二つの和訓:「かしは」と「かへ」
   2-1 「かへ」の基原植物とその語源考
   2-2 わが国の古典に現れる柏はカシワである
  第3節 常緑樹のはずの柏に落葉樹カシワが充てられた経緯
 第14章 万葉の「ひさぎ」はもっとも身近な「かしは」の一種
  第1節 万葉の「赤らかしは」はアカメガシワか?
  第2節 『萬葉集』における「ひさぎ」の表記について
   2-1 なぜ歷木を「ひさぎ」と訓ずるのか
   2-2 「ひさぎ」と読まない『萬葉集』のもう一つの歷木
   2-3 「ひさぎ」と読まない『日本書紀』にある歷木
  第3節 科学的観点から万葉の「ひさぎ」の基原を解明する
   3-1 植物学的知見から「ひさぎ」を絞り込む:形態から
   3-2 植物学的知見から「ひさぎ」を絞り込む:生態から
   3-3 古名「ひさぎ」が遺存するアカメガシワの方言名
  第4節 『和名抄』が「ひさぎ」に充てた漢名「シュウ」の基原
  第5節 『和名抄』が「ひさぎ」に楸を充てたわけ
  第6節 山部赤人の歌にみる「ひさぎ」考
   6-1 山部赤人の「ひさぎ」の歌の背景
   6-2 山部赤人の「すみれ」の歌の背景
   6-3 「すみれ」の語源
   (附) 古代の健康対策法:夏負けにウナギ
 第15章 弓材に利用された樹種
  第1節 万葉の梓弓:弓材「あづさ」の基原
  第2節 弓材に利用されたそのほかの植物
   2-1 「つきのき」(ニレ科ケヤキ) (附)「とねりこ」
   2-2 「つみのき」(クワ科ハリグワ)
   2-3 「まゆみ」
    ①万葉の「まゆみ」の用字について
    ②中国でいうダンは秦皮・白檀(旃檀)・紫檀も含む
   (附)わが国で「あふち」が旃檀と誤認されたわけ
    ③ほかにもある「まゆみ」の名をもつ植物
  第3節 ハゼノキ製ではなかった「はじ弓」
 第16章 刺のあるおどろおどろしき植物
  第1節 『萬葉集』の二つのイバラ:「うまら」と蕀原
   1-1 漢名營實エイジツからわかる万葉の「うまら」の基原
   1-2 万葉の蕀原の訓は「うばら」でよいか
     ①蕀原を『新撰字鏡』に基づいて「うばら」と訓ずる
     ②蕀原を正訓と考えて「いばら」と訓ずる場
  第2節 ほかにもある「うばら」の名をもつ植物
  第3節 ノイバラの漢名「營實」の語源解釈
   3-1 「熒惑(火星)」説(恩田経介・牧野富太郎)
   3-2 營室星の可能性について
   3-3 わが国の本草家は李時珍の如營星を誤訳した:營星は実在せず
   3-4 營實は必ずしも星に喩えてつけた名ではない
 第17章 古代から近世までの「あまもの」事情
  第1節 清少納言も嗜んだ平安の「あまづら」はブドウ科ナツヅタの甘汁
  第2節 ツタだけではない万葉の「つた」
  第3節 「あまづら」に誤認された「あまちゃ」と「つるあまちゃ」
  第4節 近世の「あまもの」:甘蔗と砂糖の登場
  第5節 「あめ」という古代のもう一つの「あまもの」
  第6節 蜂蜜は最古かつ最高級の「あまもの」
 第18章 意外にぞんざいにつけられた海藻の漢名
  第1節 意外に知られていないトコロテン(こころぶと)の歴史
  第2節 古典に登場する海藻名の釈解
   2-1 古代でもっとも普通な海藻:「わかめ」「にぎめ」「め」
   2-2 食用に薬用に重用された「みる」
   2-3 「あまのり」
   2-4 「あをのり」
   2-5 「あをさ」と「こも」
   2-6 中国にないはずなのに漢名を借用したコンブ
   2-7 「あらめ」と「かちめ」
   2-8 「いぎす」
   2-9 今日とは種が異なる古代の「もづく」
   2-10 「ひじき」
   2-11 「おごのり」
   2-12 「とさかのり」
   2-13 「つのまた」
   2-14 「ふのり」
   2-15 「なはのり」
  第19章 つるを表す二つの和名:「かづら」と「つづら」
  第1節 「かづら」と呼ばれる植物
   1-1 万葉の木妨己の正しい訓
   1-2 語源が異なる万葉の「くず」と『和名抄』の「くすかづら」
   1-3 大神神社の鎮花祭で花鬘にするスイカズラ科スイカズラ
   1-4 「ねなしぐさ」:ヒルガオ科ネナシカズラ
  第2節 「つづら」または「づ(つ)ら」と呼ばれたつる類
   2-1 複数のつる性植物を指す「あをつづら」
   2-2 つるでないのに「つづら」と呼ばれるクマツヅラ
   2-3 「まさきづら」はつる性の「さかき」の意
  第3節 古くはクズとフジは区別されなかった
 第20章 花は美しいが毒のある「つつじ」と「あしび」
  第1節 躑躅テキチョクは「つつじ」の毒性を表す漢名である
  第2節 馬醉木は「あしび」の毒性を表す名である
 第21章 在来の香辛料と渡来の香辛料
  第1節 古来の香辛料「はじかみ」は三系統ある
  第2節 わが国に原生する「はじかみ」:椒について
   2-1 蔓椒:「ほそき」(ミカン科イヌザンショウ)
   2-2 蜀椒:「ふさはじかみ」(ミカン科サンショウ)
   2-3 秦椒:「かははじかみ」(ミカン科フユザンショウ)
  第3節 古代に渡来した「椒」:コショウについて
  第4節 近世に渡来した「椒」:トウガラシについて
  第5節 椒ではない外来の「はじかみ」(一):薑について
  第6節 椒ではない外来の「はじかみ」(二):茱萸について
   6-1 呉茱萸:「からはじかみ」
   6-2 山茱萸:「いたちはじかみ」
  第7節 今日では用いない古代の香辛料:「こぶしはじかみ」
  第8節 わが国固有の香辛料:「わさび」
  第9節 意外に新しい香辛料「はか」(薄荷)
 第22章 春の七草と七草がゆの起源
  第1節 『萬葉集』に登場する春の七草(一):セリ
  第2節 『萬葉集』に登場する春の七草(二):スズナ(アヲナ)
  第3節 『萬葉集』にない春の七草(一):ナズナ
  第4節 『萬葉集』にない春の七草(二):ハコベ
  第5節 『萬葉集』にない春の七草(三):ハハコグサ
  第6節 『萬葉集』にない春の七草(四):ホトケノザ(古名)
  第7節 『萬葉集』にない春の七草(五):スズシロ
  第8節 春の七草の起源は秋の七草より新しい
   8-1 七草がゆの風習の祖型は大陸の七種菜である
   8-2 七種菜のほかにあった十二種若菜とその構成について
    ①菌 ②薊 ③苣 ④芹 ⑤薺 ⑥水雲 ⑦蕨 ⑧葵
    ⑨蓬 ⑩水蓼 ⑪芝 ⑫松
   8-3 七草菜をまったく含まない正月十五日の七種粥
   8-4 七種菜の羮と七種粥の融合で七草がゆが発生した
 第23章 海を渡って来た優雅な花卉
  第1節 「きく」
   1-1 重陽ちょうようの節句の菊花酒
   1-2 重陽の節句の菊の綿拭いは日本固有の習俗
   1-3 重陽の節句と五月の薬玉の関係
   1-4 菊と霜、残り菊
   1-5 黄花の菊と白花の菊
   1-6 キクの和名と漢名の釈解
   1-7 万葉の「ももよ草」はキクか?
  第2節 シャクヤク
   2-1 『詩經』の勺藥がシャクヤクではない可能性はあるか
   2-2 芍藥が花卉として評価されたのは六朝以降である
  第3節 ボタンに「やまたちばな」の和名をつけた背景
 第24章 花よりも実が珍重された「くちなし」
 第25章 古典に登場する淡水の水草:イツモとウキクサ
  第1節 「いつものはな」は清流に生える稀少植物であった
  第2節 単なる浮萍ふへいの訳名ではない「うきくさ」
  第3節 本草にいうもう一種の浮草デンジソウ
 第26章 古典に登場するヤシ科植物
  第1節 誤って充てた「あぢまさ」の漢名:檳榔ビンロウはわが国に自生しない
  第2節 『枕草子』に初見するヤシ科植物「すろのき」
 第27章 古典に登場する地味なシダ植物
  第1節 基原は同じ「つくづくし」と「すぎな」
  第2節 研磨に利用された「とくさ」 (附)「むくのは」
 第28章 秋の七草と日本文化
  第1節 『萬葉集』に原点のある秋の七草
  第2節 植物名の配列に意味のある憶良の七草の歌
  第3節 質量ともサクラ・ウメを凌駕する万葉のハギの歌
  第4節 わが国におけるハギの植物文化的位置
   4-1 ハギは死のシンボルではない
   4-2 古代の「めど」はメドハギではない
  第5節 平安以降のハギの文学的位置:「もとあらのこはぎ」
  第6節 漢籍古典に見当たらないハギ
  第7節 まったく類縁のない植物なのに「はぎ」と語源が共通する「うはぎ」
 第29章 『萬葉集』にない果実:カキとビワ
  第1節 縄文・弥生遺跡から遺物の出土がない「びは」
  第2節 弥生時代に大陸から渡来した「かき」
 第30章 ソバは外来の植物:その栽培は意外に新しい
 第31章 「かがみ(草)」と呼ばれる多様な植物
  第1節 「かがみぐさ」と呼ばれる植物各種(一)
   1-1 イチヤクソウ(イチヤクソウ科)
   1-2 カラマツソウ(キンポウゲ科)
   1-3 チドメグサ(セリ科)
   1-4 ユキノシタ(ユキノシタ科)
  第2節 「かがみぐさ」と呼ばれる植物各種(二)
   2-1 蘿摩ラマ(ガガイモ科ガガイモ)
   2-2 徐長卿ジョチョウケイ(ガガイモ科スズサイコ)
   2-3 白前ビャクゼン(ガガイモ科イヨカズラ)
   2-4 白芨ビャッキュウ(ラン科シラン)
   2-5 螺厴草ラエンソウ(ウラボシ科マメヅタ)
  第3節 古典に登場する「かがみぐさ」
   3-1 面影草の異名がある山吹(バラ科ヤマブキ)
   3-2 浮草(ウキクサ科ウキクサ)
   3-3 鏡を磨くのに用いられた「かたばみ」(カタバミ科カタバミ)
   3-4 昔は鏡もちの上に供えた大根(アブラナ科ダイコン):歯固めの儀について
  第4節 「かがみ」の語源解釈について
 第32章 万葉植物考補遺:「はなかつみ」と「はは」
  第1節 アヤメ科ではなかった万葉の「はなかつみ」
  第2節 「ははくり」は漢方薬バイモの和産同属植物である
 引用および参考文献
 索引(植物名ほか
 あとがき