サクラの研究(第二報):続ソメイヨシノの起源
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 第一報に続いて、交配実験の結果を記した論文である。ここでは結論のみを紹介する。
引用文献:Bot. Mag. Tokyo 78: 319-331 (Sept. 25, 1965)
結 果 の 要 旨

  1.  ソメイヨシノの実生の成樹の内約130株について,この外部形態を調査した.典型的のオオシマザクラとエドヒガンとに入れらるべきものを極く少数生じ,大多数のものは両者間を連続的につなぐ形質分布を示すものであった.またその中にはソメイヨシノ型のものも少数出現した.
  2.  オオシマザクラとエドヒガンの間の交配F1で14株の成木を得た.これらは互の間に少しずつの差異はあるが,形態的に見て,すべてソメイヨシノの範疇に入るものである.ただしソメイヨシノそのものよりは葉と花が大きく,雄ずい数が多く,また1株を除いて他はすべて花色が薄かった.
  3.  オオシマザクラとイトザクラとの交配F1はソメイヨシノよりも枝条が華奢であり,葉と花が僅かに小さく雄ずい数が僅かに少なかった.外見上ソメイヨシノはオオシマザクラとイトザクラのF1というよりもオオシマザクラとエドヒガンのF1という方が,より適当に思われる.
  4.  オオシマザクラとソメイヨシノとの交配F1で19株の成木を得た.これら19株は割合均一であった.オオシマザクラとエドヒガンの交配F1で,葉・がく・花梗の毛茸および花序の散形が優性であることを知ったが,この交配F1でも,それらが当てはまった.
  5.  船原峠で発見したフナバラヨシノはソメイヨシに比べて葉と花が大きく雄ずい数が多い外は,すべてソメイヨシノと同じく,かつソメイヨシノと同様に雑種強勢を示す.オオシマザクラとエドヒガンとの自然交雑によってできたF1と考えられる.
  6.  熊本市で栽培されていたクラマザクラはソメイヨシノに比べて,葉と花が大きく枝条に少し屈曲気味があるが,他はすべてソメイヨシノと同じである.しかも著るしい雑種強勢を示す.このサクラもオオシマザクラとエドヒガンとの自然交雑によって生じF1と考えられる.
  7.  萩市で栽培されていたが現在は成木の見られないミドリヨシノは,花色の白いという点だけソメイヨシノと異なり他の形質はすべてソメイヨシノと同じである.これもまた徳川時代に伊豆あたりに生じたものが,ひろい上げられて庭園樹となったものと思われる.
  8.  著者も伊豆と房州その他でソメイヨシノの子孫と思われるものを少数発見したが,分類学者によっても見いだされつつある.これらの中にはソメイヨシノそのものの子孫もあろうが,その他,過去においてソメイヨシノと同様にオオシマザクラとエドヒガンとの交配によって生じたソメイヨシノようのサクラがあって,それらからの子孫もあるであろう.