沖縄県西表島、石垣島での学外研修旅行→戻 る
平成19年3月14日から17日まで、北緯24度、日本最南端の亜熱帯の島西表島へ教室旅行を挙行しました。この地図の番号を付けたところを調査しました。①は浦内川上流でマリウド、カンピレーの滝までトレッキングしました。②は大見謝川上流の亜熱帯林、③は後良川河口マングローブ、④は前良川河口マングローブで、これより順次説明します。
1. この学外研修旅行で利用したのが琉球大学熱帯生物圏研究センター西表実験所で、いかにも沖縄らしい赤瓦の独特の建物が宿泊棟で、この向かい側に実験棟があります。この施設は全国共同利用施設で、植物、動物など西表島の自然を研究する大学研究者が利用します。教員の指導のもとなら学生も利用できます。創薬資源学教室は十年近く前からこの施設を利用した研究を行っています。
2. 西表島西部の島内最大の川「浦内川」の上流で、ここまで遊覧船で到達できます。その途中はスライドにはありませんが、マングローブ林の中を航行するので熱帯の気分を満喫できます。マングローブ林は後ででてきます。ここからカンピレーの滝まで徒歩でハイキングです。
3. トレッキングの途中でこのように大きなシダ群落がいっぱい見られます。本土のシダとは比較にならないほど大きいです。
4. ジャングルの中にある小さな滝です。西表島にはピナイの滝という高さ50メートル(華厳の滝の半分ぐらい)もある滝がありますが、今回は行きませんでした。周りの植物は熱帯、亜熱帯の植物ばかりです。
5. 熱帯、亜熱帯にはこのように根が板のように張り出した樹木が多くなります。これを板根といいますが、これはギランイヌビワというクワ科の木のものです。
6. 西表島の内陸にある滝で、マリウドの滝といいます。落差は16メートルしかありませんが、島にある滝にしては水量が多く、なかなか見応えがあります。マリウドの語源はオーストロネシア系の南方語由来といわれますが、そういえばタガログ語のような語感ですね。
7. マリウドの滝の展望台も用意されています。
8. カンピレーの滝です。一般のトレッキングではここが終点です。滝といっても垂直に落ちるのではなく、なだらかに200メートルにわたって続くものです。日光の竜頭の滝を小形にしたような滝で、マリウドの滝とは対照的です。
9. ここは西表島東部にある大見謝川上流の亜熱帯林で、ここは国立公園の保護区域外ですから、ここを調査拠点にして植生、植物相調査を行いました。10メートルx10メートルの区画を設定して、この中にある植物種をシラミつぶしに調べ、個体数も記録しました。
10. 採集した植物試料を整理しているところです。
11. 高木が多く、高枝ハサミを使って枝を切り落としますが、中には届かないものもあります。
12. 調査した植物の種は皆わかるわけでないので、同定のため標本の作製が必須です。アルコールに浸けて郵送し、乾燥して台紙に貼付けて標本とします。
13. 西表島東部には大規模なマングローブ林が多くありますが、最大のものは仲間川流域にありますが、特別保護区域ですので、通常の調査は困難です。このスライドにあるのは後良川のマングローブ林で、これもなかなか立派なもので、小アマゾンのようです。マングローブの北限は鹿児島県大隅半島の喜入ですが、本格的なマングローブ林は八重山諸島以南でないと見られません。
14. マングローブの樹種は耐塩性があり、干潟の海にどんどん進出します。後良川周辺では、開発により土砂が流れ出して海が浅くなり、マングローブ林が沖に向かって進出し、植生が大きく変化しています。調査の目的の一つはこの植生の変化を長い期間にわたって観察することです。
15. マングローブ林の最前線です。左のタコの足のような木はヤエヤマヒルギで、マングローブの海側の前線にくる種です。
16. 海が浅くなってかなり沖合までマングローブが進出しています。右はヤエヤマヒルギですが、左はマヤプシキという種で、これもマングローブの最前線に出現します。マヤプシキは西表島と石垣島を北限とするマングローブ樹種で、台湾になくフィリピンまでいかないと見られないめずらしいものです。
17. マヤプシキは猫の膝という意味だそうで、これも南方語由来だそうです。写真はマヤプシキの気根でマヤプシキの語源の由来はこの気根を猫の膝に見立てたのだそうです。周辺に根を張って多くの気根を出し、これで呼吸をします。いかにも熱帯的な植物といえるでしょう。
18. マヤプシキの花です。後良川周辺ではマヤプシキの個体数が急増しており、今回の調査では多くの個体が花をつけていました。この辺りでは普通にありますが、西表島の西部にはなく、石垣島では数個体しかないといわれ、日本では大変珍しいものなのです。
19. 後良川マヤプシキ林の中を調査しました。一日に一回、引き潮の時しか、このようにマングローブの中を歩けません。
20. これも西表島東部のマングローブ林を代表する樹種で、クマツズラ科のヒルギダマシです。西表島では横に低く広がるように生育しています。幹は黄色く、ナフトキノン系の色素が含まれているそうです。
21. 前良川周辺のマングローブです。
22. 前良川のマングローブ林では陸地側の後背にサキシマスオウという大きな板根をもつ木の群落があり、「古見のサキシマスオウ群落」として天然記念物に指定されています。また、ここは古くから沖縄の土着信仰の聖地「御嶽」として保護されてきました。本土では鎮守の森に相当するものです。
23. 調査を終えたあと、有名な由布島にもいってきました。
24. この光景はTVのコマーシャルですっかり有名になりましたね。水牛の牛車で海を渡ります。当日も多くの団体観光客が訪れていました。
25. 西表島の牧場(八重山牛の放牧)と水田です。ここではもう田植えは終わっていました。年に二回米がとれます。
26. パイン畑です。収穫には二年ぐらいかかるそうです。
27. 熱帯果樹のバンジロウです。島内では野生化しているところもあります。
28. いたるところにあるハイビスカスの花。色々な品種が植えられています。
29. 見てすぐにツツジとわかりますが、原色の色鮮やかなサキシマツツジで、いかにも南方のツツジという感じがします。
30. 日本では八重山諸島にしかないマングローブに生えるシダでミミモチシダといいます。天然記念物に指定されている珍しいもので、これも台湾を飛び越えてフィリピンまでいかないと見られないものです。
31. 宿舎の近くの民宿マリウドで珍しい熱帯の果実酒が飲めます。全て手作りのオリジナルです。
32. 教室旅行の番外編です。帰りの飛行機の待ち時間を利用して石垣島の島内観光を楽しみました。ここは観光客の誰もが訪れる島内きっての観光スポット川平湾で、真っ白な砂浜と美しいサンゴ礁の海が売りです。グラスボートもありますが、時間の関係で乗船できませんでした。
33. 番外編とはいえ、ただ遊びのために訪れたのではありません。ここには御嶽があってオトギリソウ科高木テリハボクの立派な群落があります。大きいものは樹高15メートル以上あり、一見の価値があります。
34. 川平湾の近くに天然記念物に指定されている米原のヤエヤマヤシ群落があります。
35. ヤエヤマヤシは樹高25メートルほどになる立派なヤシの一種で、世界で石垣島と西表島にしか分布しない一属一種の珍しいものです。近縁種は台湾、フィリピンを飛び越えてメラネシアまでいかないと見られないといわれます。米原の群落は千本以上のヤエヤマヤシが生育し、熱帯のジャングルにいるような気になります。
36. 石垣島観光の最大の目玉(?!)はクサミズキ農園です。石垣島は観光だけではなく、亜熱帯という気候を生かした農業も盛んで、多くの熱帯植物が栽培されています。クサミズキはクロタキカズラ科の小高木で、石垣島と西表島の一部にわずかに自生する珍しい植物ですが、抗癌薬イリノテカンの原料となるカンプトテシンが含まれ、ここではそれを抽出するために大規模に栽培されています。薬用原料の栽培の現場として薬学の徒にとって必見の地です。
37. これがクサミズキで、実をつけていました。コーヒーの実によく似ているので、観光客がコーヒーを栽培していると勘違いするほどです。南西諸島では徳之島でコーヒーを栽培している農家がありますので、石垣島でも栽培されていると思ったのですね。実にアルカロイドが含まれているとは限りませんが、口にしない方が無難です。
38. 次いでながらイリノテカンの構造式を示しておきます。赤い部分がクサミズキに含まれるアルカロイド成分カンプトテシンの構造式で、黄色い部分は化学修飾で導入したものです。カンプトテシンはもともとは中国原産のヌマミズキ科カンレンボク(キジュ)Camptotheca acuminataから単離されたのですが、後にクサミズキにも含まれることがわかりました。キノリン骨格をもっていますが、生合成的にはモノテルペンインドールアルカロイドです。
39. 広大なクサミズキ農園です。道路を挟んで向かい側にはタバコが栽培されていました。冬でも温暖なこの地では年中成長します。今回は見学しませんでしたが、マンゴ、パッションフルーツ、バンレイシなどの農園も多くあるようです。