バジル(シソ科)
Ocimum basilicum (Lamiaceae)

bajiru

→戻る(2001.8.4;帝京大学薬用植物園)

【解説】 アフリカ、ユーラシアの熱帯原産の多年草だが、温帯では1年草となる。茎に4稜がある。葉は卵形~長楕円形の単葉で対生し、ほとんど無毛、縁にわずかに鋸歯がある。花期7~10月。茎の先に穂状の輪散花序をつけ、花はピンク〜白色の2唇形で4裂する。種子は黒色でゼリー状の物質を含み水を加えると膨張する性質がある。『本草ほんぞう綱目こうもく啓蒙けいもう(小野蘭山、1803年)は目に入れても痛むことなく目の塵を粘り出す故に“目箒メバヽキ”というと記している(巻之二十二「菜之一 羅勒」)。『本草ほんぞう綱目こうもく(李時珍)の「其のを以てえい(かすみ目)を治すなり」(巻第二十六「菜之一 羅勒」)という李時珍注にさらに具体的な説明を加え、これが別名メボウキの語源と考えられている。中国本草におけるバジルの初見は宋代の『嘉祐かゆう本草ほんぞう掌禹錫しょううしゃくであり、菜部上品に羅勒ラロクとある(『證類しょうるい本草ほんぞう』巻第二十七「菜部上品」所引)。一方、わが国においては『本草綱目啓蒙』より一世紀早く、『和蘭陀おらんだ本草ほんぞう圖經ずけい(稲生若水、1709年)に西洋名の「バジリコン」として初見し、「気味辛温無毒三月苗生ズ。茎四角ニシテ少シ。葉盡ク少長、葉和カニシテ薄ク香麝香ニ似タリ」という記述から、本種を中国経由ではなく西洋から直接受容したと考えられる。ただし、若水は漢名として香薷コウジュを充てるが、真の基原はシソ科ニシキコウジュElsholtzia splendens(漢種)あるいはナギナタコウジュE. ciliataまたはイヌコウジュMosla scabra(和種)である。イタリア料理に繁用するスイートバジルは本種の花穂をいう。種小名“basilicum”にも採用されているbasilバジルという名前は、ラテン語のbasilius、もっと古くは古代ギリシャ語の“βασιλικόν φυτόν” (basilikón phytón)に由来し、いずれの意も「王の植物」で、王家のための香水の製造に使用されたからという。『薬物誌』ではOKIMON(附図)に考定され、腸の働きを助け、利尿、かすみ目などによいとある。属名はラテン語でバジルを意味するōcimumで、古代ギリシア語の“ὤκιμον”、『薬物誌』のOKIMONに由来する。
引用文献:References参照。