レンテンローズ(キンポウゲ科)
Helleborus orientalis (Ranunculaceae)

rentenrose

→戻る(2003.3.29;長崎県長崎市グラバー邸内)

【解説】 欧州原産の常緑多年草。葉は根から長い葉柄が出て7~9枚の小葉で構成される掌状複葉で、小葉は革質で形は披針形〜卵形まで多様、先は鋭頭、縁に鋸歯があって光沢がある。花期は2~4月、太い花茎の先端に1~4個の花が群がってつく。黄色い雄しべがあり、その周りに密腺状に退化した花弁がつくが目立たない。花弁のように見えるのは萼片がくへんである。葉を麻酔や下剤として用いていたが、強心配糖体ヘレブリンを含むので、毒性が強く利用は難しい(→関連ページ)。わが国では園芸用に栽培されるHelleborus属種を総称してクリスマスローズと呼ぶ習慣があり、本種もしばしばその名で呼ばれる。真のクリスマスローズは同属別種のH. nigerであり、花期は12〜2月でクリスマス前後には花をつけ始めるのでその名の由来がある。これに対して本種はキリスト教の復活祭前の40日間(四荀節、英語で“Lent”という)に開花するのでLentenレンテン roseローズと呼び、あるいはハルザキクリスマスローズの別名もある。属名のHelleborusは、古代ギリシャ語の“ἑλλέβορος” (helleboros)に由来し、「傷つける」という意のἑλεῖν” (heleîn) と「食べ物」の意の“βορά” (borá)の複合名から有毒成分を含むことが示唆される。『薬物誌』ではELLEBOROSとELLEBOROS MELASの2品があり、ELLEBOROSはラテン名のHelleborusに同じ、「黒い、暗い」を意味するMELAS (“μέλᾱς”)を付し、後者の種はいわゆるblack helleboreと呼ばれるもの、すなわちH. nigerに比定される(附図1)。単にELLEBOROSとあるものは、ディオスコリデスの記述にあるように、ELLEBOROS LEUKEというべきものに相当し、LEUKE (“λεύκη”)は古代ギリシア語で「白い」を意味するからwhite helleboreであることが明らかになる。ただし、ディオスコリデスの記述および附図2を見る限りではblack helleboreと同属には見えず、シュロソウ科シュロソウ(Veratrum)属のV. albumに比定する見解が有力である。以上、古代の欧州においては本種はELLEBOROS MELASに含まれたと考えられる。薬能については、催吐作用により胃腸を浄化し、てんかん、黒胆汁症(古代ギリシア医学の体液病理学に基づいて、黒胆汁の異常代謝で起きる病気とされ、「うつ病」などに相当するという)、関節炎、麻痺などによく、膣坐薬に用いれば月経血を排出、堕胎するという。
引用文献:References参照。