エゾネギ(ヒガンバナ科)
Allium schoenoprasum var. schoenoprasum (Amaryllidaceae)

ezonegi

→戻る(2004.5.15;帝京大学薬用植物園

【解説】 欧州~シベリア原産の多年草。地下茎はラッキョウに似て鱗茎が分球して群生するが、葉は細い中空の管状で先が尖るので、容易に区別できる。花期5~7月。花茎も中空の管状だが、葉よりも長く伸び、先に淡い紫色の径1〜2cmの花序をつけ、小さな花を10~30個密に咲かせる。花は星形で花弁は6枚。通称名のchivesチャイブは本種であり、料理の薬味に葉を利用する。名は蝦夷葱だが、北方の原産なので蝦夷からもたらされたとして名付けられた。『薬物誌』にはいわゆる“ネギ”がいくつか収載されている。今日、タマネギAllium cepaleekリーキすなわちセイヨウネギA. ampeloprasumを描いた壁画が古代エジプト遺跡から出土しており、古くから栽培されていたことがうかがえる。PRASON (“πράσον”)はリーキ(附図1)、KROMUON (“κρόμυον”)がタマネギに考定されている(附図2)。ディオスコリデスはPRASONについて、液汁は有害で、胃には良く、症状の強さを軽減するが、視力を低下させ、月経を排出し、潰瘍化した腎臓や膀胱を傷めると記述する一方で、海水と酢で葉を煮て座浴すれば子宮の閉塞やしこりを治すなど、さまざまな効用を説く。以上の栽培ネギのほか、野生ネギも利用され、『薬物誌』の AMPELOPRASON (“ἀμπελόπρασον”)がそれに当たることは字義からもうかがえる。すなわちámpelos (“ἄμπελος”)は “vine”すなわちつる、prasonはネギの意であり、野生種は葉が蔓のように長く細かったことを示す。したがって本種はAMPELOPRASONの基原種の1つといってよい。種小名は古代ギリシア語の“rushイグサ”を意味する“σχοῖνος” (schoinos)と“leekリーキ”を意味する“πράσον” (prason)との複合語に由来し、“イグサのようなネギ”の意となり、AMPELOPLASONの字義と同じである。因みに、儒教の経典『禮記らいき』にタマネギが当時の中国の配膳に欠かせない食材になっていたことを伺わせる記述があるといわれるがWikipedia、「或は曰ふ、麋鹿、魚はつくり、きん辟雞へきけいに爲り、野豕やしは軒に爲り、兔は宛脾えんびに爲り、蔥若しくは薤を切り、諸醯しょけいを實し、以て之を柔かにす。」内則だいそくとあるほか、すべて「蔥」とあるだけで、『薬物誌』のように分別していない。したがって普通のネギかタマネギか、あるいは野生種なのか不明瞭である。中国本草でタマネギが記載されたのは宋代の『嘉祐かゆう本草ほんぞう掌禹錫しょううしゃくに「胡葱の莖葉粗く短くして根は金䔲(=金橙)ごとし」(『證類しょうるい本草ほんぞう』巻第二十八「菜部中品 葱實」所引)とある“胡葱コソウ”をもって初見とし、外来を意味する“胡”を冠し、「根が金橙すなわち金色のダイダイのようだ(タマネギの根皮が黄色であることを表す)」という記述が決め手となる。宋代の『太平たいへい御覽ぎょらん』に「博物志曰ふ、張騫、西域に使はして蒲桃、胡蔥、苜蓿を得さしむ所」(百卉部三 苜蓿)とある記述は漢代になってタマネギが中国に伝わったことを示す(現存本『博物志』にこの記述は見当たらない)。本草でタマネギが正品として収載されたのは『本草ほんぞう綱目こうもく(李時珍)以降である。
引用文献:References参照。