【解説】 関東地方以西の本州、四国の川の土手などに野生する多年草で、わが国では古来秋の七草の一つに列せられた。古代に中国から渡来したとされていたが、近年では日本在来の系統があるとする説が有力になりつつある。しかしながら同属の在来種ヒヨドリバナに比べると個体数はずっと少ない。茎は直立して株立ちに1〜1.5mほどに成長し下部は無毛となる。葉に短い葉柄があって対生する。下部の葉は3深裂し、縁に鋸歯があるが、花期には枯れる。中部の葉も3深裂して縁に鋸歯があるが、中裂片が大きく長楕円形となり、長さ約10cm 、幅3〜4cmになり、側片は皮針形でで相対的に小さく、葉の表面に少しつやがある。上部の葉は小さく切れ込みはない。花期は8~9月で、茎先に散房状の紫紅色まじりの白い小さな花からなる花序をつける(→花の拡大画像)。花は5個の筒状花からなり、花冠はほぼ白である。総苞は長さ7〜8mmの筒型で、総苞片は2〜3列に並ぶ。痩果は長さ約3mm、冠毛は長さ6mmほどになる。漢名は『神農本草經』の上品にある蘭草で、利尿、止渇、通経薬、浴湯剤とされた。『本草和名』は“布知波加末”と訓じ、わが国では古くからこの名が用いられてきた。全草にクマリン配糖体を含み、乾燥すると酵素の作用で分解されてクマリンを遊離し、クマリン臭(桜餅の香に同じ)をかもし出す。中国では麝香とともに「蘭麝」と称され、最高級の香料とされた。万葉集では山上憶良の秋の七草の1首にのみ藤袴として詠まれるにすぎないが、『源氏物語』の「藤ばかま」の帖では、夕霧と玉鬘が和歌を詠み交わすシーンがあり、ここにフジバカマが出てくる。これより前に「らにの花の、いと、おもしろきを、持給へりけるを〜」とあって、“蘭”という漢名を登場させているところは、紫式部ならではの心憎い演出といえる。
同じ野の 露にやつるゝ 藤袴 あはれはかけよ かごとばかりも (夕霧)
たづぬるに 遥けき野辺の 露ならば うす紫や かごとならまし (玉鬘)
属名は古代ギリシア語の“εὐπατόριον” (eupatórion)に由来し、『薬物誌』にもEUPATORION(附図)があり、Eupatorium cannabinum(hemp-agrimony)と考えられている。ローマに対する3回の戦争を指揮したPontus王Mithridates VI Eupatorへの献名といわれる。種小名はイギリスの著名なプラントハンターで、“Yedo and Peking: A Narrative of a Journey to the Capitals of Japan and China(幕末日本探訪記 : 江戸と北京)”の著作でも知られるRobert Fortuneへの献名である。
引用文献:References参照。