フジバカマ(キク科)
Eupatorium fortunei (Asteraceae)

fujibakama

→戻る(2013.9.7;北海道医療大薬用植物園)

【解説】 関東地方以西の本州、四国の川の土手などに野生する多年草で、わが国では古来秋の七草の一つに列せられた。古代に中国から渡来したとされていたが、近年では日本在来の系統があるとする説が有力になりつつある。しかしながら同属の在来種ヒヨドリバナに比べると個体数はずっと少ない。茎は直立して株立ちに1〜1.5mほどに成長し下部は無毛となる。葉に短い葉柄があって対生する。下部の葉は3深裂し、縁に鋸歯があるが、花期には枯れる。中部の葉も3深裂して縁に鋸歯があるが、中裂片が大きく長楕円形となり、長さ約10cm 、幅3〜4cmになり、側片は皮針形でで相対的に小さく、葉の表面に少しつやがある。上部の葉は小さく切れ込みはない。花期は8~9月で、茎先に散房状の紫紅色まじりの白い小さな花からなる花序をつける(→花の拡大画像。花は5個の筒状花からなり、花冠はほぼ白である。総苞そうほうは長さ7〜8mmの筒型で、総苞片そうほうへんは2〜3列に並ぶ。痩果そうかは長さ約3mm、冠毛は長さ6mmほどになる。漢名は『神農しんのう本草經ほんぞうきょう』の上品にある蘭草ランソウで、利尿、止渇、通経薬、浴湯剤とされた。『本草ほんぞう和名わみょう』は“布知ふぢ波加末ばかま”と訓じ、わが国では古くからこの名が用いられてきた。全草にクマリン配糖体を含み、乾燥すると酵素の作用で分解されてクマリンを遊離し、クマリン臭(桜餅の香に同じ)をかもし出す。中国では麝香ジャコウとともに「蘭麝らんじゃ」と称され、最高級の香料とされた。万葉集では山上憶良の秋の七草の1首にのみ藤袴ふぢばかまとして詠まれるにすぎないが、『源氏物語』の「藤ばかま」の帖では、夕霧ゆうぎり玉鬘たまかずらが和歌を詠み交わすシーンがあり、ここにフジバカマが出てくる。これより前に「の花の、いと、おもしろきを、たまへりけるを〜」とあって、“らに”という漢名を登場させているところは、紫式部ならではの心憎い演出といえる。
おなじ野の 露にやつるゝ 藤袴ふぢばかま あはれはかけよ かごとばかりも (夕霧)
たづぬるに けき野辺の 露ならば うすや かごとならまし (玉鬘)
属名は古代ギリシア語の“εὐπατόριον” (eupatórion)に由来し、『薬物誌』にもEUPATORION(附図)があり、Eupatorium cannabinum(hemp-agrimony)と考えられている。ローマに対する3回の戦争を指揮したPontusポントスMithridatesミトリダテス VI Eupatorエウパトルへの献名といわれる。種小名はイギリスの著名なプラントハンターで、“Yedo and Peking: A Narrative of a Journey to the Capitals of Japan and China(幕末日本探訪記 : 江戸と北京)”の著作でも知られるRobert Fortuneへの献名である。
引用文献:References参照。