ヘンルーダ(ミカン科)
Ruta graveolens (Rutaceae)

henruda

→戻る(2004.5.24;東京都薬用植物園)

【解説】 欧州南部原産の常緑亜低木状の多年草。葉は青灰色の2回羽状複葉で対生し、ややくせのある芳香があり、小葉は長楕円形で先は丸くて縁は全縁である。花期6~7月で、黄色の4〜5弁の花が総状につく。欧州では民間薬として全草を通経、駆風、またヒステリーに用いる。茎葉には強い殺虫作用があり寄生虫駆除にも用いる。しばしば漢名を芸香ウンコウとするが、『本草ほんぞう綱目こうもく(李時珍)では山礬サンバン(基原はハイノキ科ハイノキ属)の異名としているなど、基原認識がまったく混乱していることに留意する必要がある。和名は『大和やまと本草ほんぞう(貝原益軒、1709年)に“ヘンルウタ”とあるのがわが国における文献上の初見であるが、ポルトガル語ではArrudaアルーダ、オランダ語ではWijnruitヴェインライトといい、両名が複雑な経緯で融合して発生した“外来語もどき”と考えられる。詳細は拙著『和漢古典植物名精解』の第11章第2節「2-2」を参照。『薬物誌』はPEGANON TO KEPAION、PEGANON TO OREINONという2種のPEGANON (“πήγανον”;古代ギリシア語でヘンルーダおよび類縁植物の総称) を載せる。TO (“το”)は冠詞で“the”の意であるから、植物情報には無関係である。OREINONは、古代ギリシア語の“ὄρος” (óros)の所有格“ὄρεος” (óreos)に通じ、“mountainous”を意味するので、ディオスコリデスのいう「山地に生育し食用に適さない野生のヘンルーダ」とはPEGANON TO OREINONであり、本種に該当しない。もう一種は、ニューヨーク・モルガン図書館&博物館所蔵の『薬物誌』(Constantinople版、10世紀半ばの零本れいほんによればPEGAMON KEPEUTONとあり、これをRuta hortensisすなわちヘンルーダの栽培種(現在ではRuta graveolensの異名)に充てる見解があり(ANNALES UNIVERSITATIS MARIAE CURIE-SKŁODOWSKA LUBLIN—POLONIA, VOL. XXV, 47, SECTIO D, 1970)、KEPAION・KEPEUTONのいずれも正確な意味はわからないが、ディオスコリデスのいう「栽培種」と考えてよい。ただし、附図はいずれもほとんど差はない。ヘンルーダRuta graveolensとコヘンルーダRuta chalepensisは花の微妙な形態を除いてほとんど差はないから、『薬物誌』にいう2品はこの2種をいうのかもしれない。薬能については、体を温め、潰瘍を改善し、利尿作用があり、月経の流れを促進し、下痢を止める効があるといい、ほかにブドウ酒とともに服用すれば解毒剤になりクルミや乾燥イチジクとともに葉を食べると防毒効果があり、中絶、呼吸困難、咳、肺炎、腰や関節の痛み、周期的な寒気などによいと記述されている。ほかの薬草との併用についても詳しく記している。西洋では本種および同属植物を“rueルー(語源は不詳)と総称し、ミカン科のラテン名Rutaceaeの由来となっている。わが国でもかつてヘンルーダ科と称していたことがある。属名は古くから今日まで用いられる本種の呼称“rue”に由来し、種小名はラテン語で“heavy”の意である“gravis”と“smelling”の意である“olēns”よりなる複合語で「強い匂いがある」という意である。
引用文献:References参照。