クロタネソウ(キンポウゲ科)
Nigella damascena (Ranunculaceae)

kurotanesou

→戻る(2004.7.16;帝京大学薬用植物園)

【解説】 欧州原産で成長しても50cm内外の比較的小さな1年草。葉は3回〜4回羽状に細かく裂けて裂片は糸状となる。花期5~6月、花弁のように見えるのは萼片で5〜6枚あり、花弁は退化して蜜腺鱗片となって中央部の雄しべ・雌しべを取り囲む。緑色の子房は太い花柱の先が細く5つに分裂した柱頭をもつ。雄しべもほぼ緑色で子房を取り囲んで平開する。花は直径4〜5cmで、花色は、通例、薄紫色〜薄青色だが、さまざまな色の園芸種が作出されている。果実は大きくだるま状にふくらみ、中にしわのある小さな黒い種子があり、黒種草という和名がつけられた所以である。『薬物誌』のMELANTHION(附図)に考定されている。附図は葉が細裂していること、そして成熟した果実の形態的特徴を比較的よく表している。MELANTHION (“μελάνθιον”)の冒頭部分“mélan”は、古代ギリシア語の「黒い」を意味する“μέλᾱς” (mélas)に通じ、「状態(state, condition)」の意の接尾辞thion (=tion) (“θιον”)を付して「黒いもの」を意味し、おそらく薬用部位として重要な種子の色を表したと考えられる。ディオスコリデスは種子の薬能について、砕いてイリス油に和して鼻腔にいれると眼の充血を改善し、酢とともに用いるとホクロ、ハンセン病、浮腫、硬いしこりを取り除き、酢とマツの心材と混ぜて服用すると歯痛に効き、水に煎じて服用すると月経血が排出し利尿、催乳の効果があると記載している。属名はラテン語の“nigellus”で「小さく黒い」という意、種子の特徴を表すところはギリシア名に同じである。種小名はシリアのDamascusダマスカスを指すが、当地に多産したからか。
引用文献:References参照。