【解説】 欧州南部原産で大きい個体では2mほどになる二年草。茎は中空で、多くの個体では綿毛で覆われる。葉は長さ15~60cmの長楕円形〜披針形で、通常は羽状に裂け、縁に鋭いトゲがある。無毛かつ緑色で光沢があるが、乳白色のまだら模様がある。花期は4~8月で、頭花は長さ4~12cm、無毛の苞葉に囲まれて三角形のトゲ状の付属体があり、先に堅い黄色のトゲがある(→花の拡大画像)。熟すると黒色の長くて白い冠毛をもつ痩果となり、冠毛の基部すなわち痩果の上部に黄色のリングが見える。果実を内臓疾患に用いるほか、本種の根を味噌漬けにして食べる。市販の「ヤマゴボウの味噌漬け」とはヤマゴボウではなく本種である。わが国には江戸末期に渡来し、『草木圖説』(飯沼慾斎)に「オホアザミ」(前篇巻十五)の名で詳細な図絵を掲載、簡潔な記載とともにリンネによる旧学名“Carduus marianus L.”が記載され、今日でも別名でオオアザミと称するのはこれに基づく。英名をmilk thistleあるいはSaint Mary's thistleといい(thistleは英語でアザミのこと)、白いまだら模様をこぼれたミルクに擬えた。『薬物誌』のSILUBONに比定されているが、附図は似ているとはいい難いものの、一応、つぼみと葉の特徴は表されている。ただし、附図がチョウセンアザミとされているSKOLUMOSに酷似しているので、ディオスコリデスが両種を的確に識別していたか疑問が残る。また互いによく似ているにもかかわらず、SILUBONはBOOK IVの“Other Herbs & Roots”に、一方、SKOLUMOSはBOOK IIIの“AKANTHODA or Prickly Plants”に分類しているのは、きちんと区別されていなかったと考えざるを得まい。薬能については食用とするほかは催吐作用だけで記載はごく簡潔である。属名は古代ギリシア語で「房」を意味する“σίλυβον” (sílybon)あるいは“σίλλῠβον” (síllybon)に由来し、花の形態あるいは白いまだら模様の葉を表したと推定される。種小名は、エジプトに逃げる間、子供に授乳したという聖書に記述された聖母マリアの伝説に因んで、本種の白い紋様をそのミルクに見立てた。
引用文献:References参照。