サントリソウ(キク科)
Centaurea benedicta (Asteraceae)

santorisou

→戻る(2004.5.1;帝京大学薬用植物園)

【解説】 地中海地域原産の1年草で、茎は直立するより横方向に分枝する性質が顕著で、通例、高さは50cm以下である。葉にも剛毛があり、羽状に浅裂~中裂して網状脈が目立ち、とりわけ下面で著しい。縁にまばらな鋸歯がありそれぞれの先に鋭いトゲがある。根生葉は有柄で、長さは約30cm、幅は約8cmの長楕円形、逆羽状~羽状に中裂し、通例は開花すると枯れる。下部と中部の茎葉は有柄でよくがあって狭楕円形、上部の葉は小さく無柄となって羽状に浅裂~深裂し、基部は茎を抱くかのような漸鋭尖形で、裂片は三角形~狭楕円形となる。最上部の葉は頭花より上に出る。花期6~8月で、頭状花序を形成して茎頂や枝先に単生し、基部につく苞葉ほうように囲まれる。総苞そうほうは径約2cmの卵形で、総苞片そうほうへんは4~5列で瓦をしきつめたように圧着してそり返らない。小花は淡黄色の糸状で先が5〜7裂するが、アザミ属植物と同じように、本種の小花の性は雄から雌へと変化するため、雄性期と雌性期とではほかの典型的な筒状花とは形態が異なる。痩果そうかは円筒形、長さ約8mm。草を苦味くみ健胃薬けんいやくとするほか、強壮や感染症、外傷の治療などに用いる。別名キバナアザミ。『薬物誌』には本種の属名に因むものとしてKENTAURION MAKRONとKENTAURION MIKRONの2品がある。KENTAURION (“κενταύριον”)はギリシア神話に登場する、人間の上半身と馬の下半身と脚を持つ怪物“κένταυρος” (kéntaurosケンタウロス) のことであるが、ケンタウロス族の中でも例外的に賢者であった“Χείρων” (Chironケイローン)によって薬効が発見されたという伝説を受けて作られた名で、そのラテン語形“centaurēum”がヤグルマギク(Centaurea)属の名の由来となった。MAKRON (“μακρόν”)は古代ギリシア語で「長い、大きい」という意味、MIKRON (“μικρόν”)はその反対語である。『薬物誌』は以上の2品のうち、KENTAURION MIKRONの附図を載せるが、Centaurium erythraea subsp. erythraea (和名はベニバナセンブリ、後述)に酷似し、ディオスコリデスの記載内容との矛盾は少ない。一方、KENTAURION MAKRONの附図はないが、通説のCentaurea centauriumでよいかと思う。ただし、今日ではSerratula coronata subsp. coronataの異名とされ、形態的にきわめて多様であり、わが国に分布するタムラソウvar. insularisも含まれる。結論として、アザミ属に近い形態的特徴をもつサントリソウに合致し、類縁の品目は『薬物誌』に存在しない。和名はベニバナセンブリの英名“centaury”の発音“séntɔːri”、あるいはオランダ語の“Santorie”の音写が何らかの手違いで本種に転じたことに由来する。属名の由来は前述した通り、種小名の“benedicta”はラテン語で“blessed”という意である。和名が種小名に由来していないのはおよそ“神聖な”というイメージからかけ離れた“刺々しさ”があるからだろう。江戸末期の1818年、大槻玄沢・宇田川榛斎の建言により、オランダより取り寄せた薬草60種の中に、“Cardbenedict”および“Kleene Santorie”の名が見え、それぞれサントリソウとベニバナセンブリ(前述)に当たる(「洋舶盆種移植の記」)
引用文献:References参照。