プエラリアの安全性に問題はないのか?
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プエラリア(ガウクルア)の服用で知っておくべきこと

 最近、「プエラリア(プエラリア・ミリフィカ)」(あるいはガウクルア注1と称するタイ産サプリメントが注目を集めているようである。「~ようである」というのは、それが主に老若の女性向けであって男性である筆者自身が目にする機会がなく、ネット上で販売されていることをごく最近知ったばかりだからである。しかし、その基原植物については熟知しており、むしろサプリメントとして販売されている事実に驚いている。なぜなら、「プエラリア(ガウクルア)」にはミロエステロール(Miroestrol)という強力なエストロゲン活性をもつ成分が含まれており、本来なら医師や薬剤師の指示がなければ服用できないものだからである。一方で、「プエラリア(ガウクルア)」は、最近、新聞や雑誌の健康関連記事で話題を集めつつあるイソフラボン(以下植物の化学成分:イソフラボノイドを参照)を豊富に含むことを売り文句に健康の維持増進のためのサプリメントとしても販売されている。ミロエステロール、イソフラボンともにファイトエストロゲンと称されるものであり、簡潔にいえば植物起源の女性ホルモン作用物質である。女性ホルモンとしてミロエステロールは卵胞ホルモンであるエストラジオール(Estradiol)に匹敵する強さがあり、販売サイトが主張するような「プエラリア(ガウクルア)」の服用で胸が大きくなる(バストアップ)というのはある程度事実であろう。エストラジオールは日本薬局方において指定医薬品、要指示医薬薬品に指定されているステロイドホルモンであるから、「プエラリア(ガウクルア)」のホルモン作用の強さを想像するのは困難ではないだろう。また、対照的にイソフラボンはごく軽微な女性ホルモン作用があり、ダイズなどにも含まれるイソフラボンが更年期障害の緩和や骨粗鬆症の予防などに効果があるということが多くの研究者の支持を得ていることも確かである。イソフラボンを多く含む食材として豆腐、納豆などダイズを原料とするものがあり、最近ではダイズより創製した特定保健用機能食品も販売されている。「プエラリア(ガウクルア)」のイソフラボン含量はダイズの数十倍あり、イソフラボン補給の観点ではダイズより優れた機能食品として販売されている。しかし、結論から言えば、サプリメントとしての「プエラリア(ガウクルア)」の服用は多くの危険をはらんでいる。一つはミロエステロールという強力な女性ホルモン活性物質の存在による内分泌撹乱作用である。植物起源とはいえ、「プエラリア(ガウクルア)」に含まれるミロエステロールやイソフラボンは生体にとっては異質の化学物質(xenobiotic)であり、いわゆる環境ホルモン注2と同様の作用、すなわち内分泌系の撹乱を起こすことに留意する必要がある。女性ホルモン作用物質を摂取するとそれによりホルモン作用が起きるので、内在性の女性ホルモンの分泌が抑えられてしまい、結果的にホルモン代謝系を撹乱することになる。こうしたことが日常的に繰り返されれば女性ホルモンの分泌能が衰え、不妊症などの原因となる。特に、若い女性にとっては深刻な副作用を起こす。しかしながら、かかる副作用は深刻でありながら目に見えない(症状がでても別の原因と誤認されることが多い)ことが多いので極めて厄介である。したがって、強力な内分泌撹乱物質(ミロエステロール)の存在を考慮しないで美辞麗句の宣伝文句に惹かれて無防備に服用すれば、知らず知らずのうちに体が蝕まれていくことになる。本ページではそのようなことを避けるため「プエラリア(ガウクルア)」のどこが危険なのか、生薬、薬用植物の専門家としての立場からその詳細を紹介する次第である。詳しくは次の目次または上の関連ページボタンを参照していただきたい。

  1. プエラリアは危険なエストロゲン作用物質を含む
  2. イソフラボンも過剰摂取すると健康障害を起こす
  3. プエラリアは食品とはいえない
  4. プエラリアは未完成のサプリメントである


注1) 「プエラリア」は基原植物であるマメ科Pueraria mirifica(プエラリア・ミリフィカ)の属名Puerariaを冠したものである。一方、「ガウクルア」は現地名"Guao Krua"である。無論、発音の仕方によってカタカナ表記は変わる。もともとはタイ文字なのでアルファベット表記も異なることがある。かっては"Kwao Keur"とされたこともあった。ここでは「プエラリア(ガウクルア)」と称することにする。
注2) 内分泌ホルモンの受容体に作用しホルモンとしてふるまうため、内分泌系を撹乱する作用を有する環境汚染物質の総称。人工的に作られた環境汚染物質以外に、植物成分など天然に存在する物質(二次代謝産物)の中にも同様の作用を有するものがあり、両者を含めて内分泌撹乱物質と称することもある。