中東を中心として東はインド、西は欧州、アフリカまで広く実践されてきたのがアラビア医学であり、それはサラセン帝国の繁栄とともに広まったものであり、中国、インドと並ぶ三大伝統医学と称されている。アラビア医学の源流はギリシア医学といわれるが、ギリシア医学自体古代メソポタミア、エジプトにさかのぼるので、この地域で発生した各種の伝統医学を集大成した結果であろうと思われる。アラビア医学は人体は食物が変化してできた四つの体液(血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁)からなると考え、それぞれ血液には熱・湿、粘液は冷・湿、黄胆汁は熱・幹、黒胆汁は冷・幹の性質があり、病気とはこのバランスが崩れた状態と認識する。また、人間にはもともと自然治癒力があり、薬物はそれを補助するためという位置付けで用いるとする。薬も熱、冷・幹、湿の性質をもち、熱性の病には冷性の薬物をという風に処方する。また、薬の強さも等級別に分類され、身体に明確な作用を及ぼさないものを第一級、薬効があって害がなければ第二級、害はあるが生命に及ぶほどでもないものは第三級、生命に危険のあるものは第四級で毒とする。以上がアラビア医学の体液病理による学説であるが、漢方の気血水、アユルベーダのドーシャ(体液の意味)など他の伝統医学にも見られ、決して特殊なものではない。中東地域は砂漠乾燥地帯であり、植物相は貧弱である。そのため、アラビア医学ではインドや地中海沿岸、あるいは中国からもたらされたものを用いている。したがってアラビア医学は中東が世界の文化の中心であった時代に交易の結果としてもたらされた周辺地域の伝統医学を集大成したものといってよいだろう。