インドの伝統医学
→戻る

 インドでは紀元前800年頃最古の医学書である『アタルヴァ・ベーダ』が発行され、世界で最も古い体系医学の一つである。しかし、これは呪術的色彩の濃い書であり、実際今日のアユルベーダ医学として知られる体系の原型ができたのはそれから千年を経た紀元後のことである。アユルベーダの学説は漢方と並んで高度に体系化されている。内科学、外科学など八つの部門に分けられ、脈診、舌診、触覚検診など八つの診察項目があり、シャマナ、ショダナ、外科、食事の四つの治療法が実践され、薬物療法として8000種にのぼる処方が知られている。薬物も抽出液、鉱物、粉剤、煎薬など多彩である。アユルベーダの中心的概念はヴァータ、ピッタ、カパと称される3つの要素でドーシャと総称されるものである。これら3要素は体の特定の部位を管轄すると考えられ、例えばヴァータは腸のほか、尿道、臀部、大腿部、脚、骨を、ピッタは胃のほか汗、唾液、血液を、カパは胸部、頭部、咽喉、関節にあるとされ、平衡状態が崩れたときに病気をおこすと考えられた。治療法として植物基原生薬を主とする薬物療法のほか、浄化により汚染されたドーシャを追放するとして、吐剤、下剤、浣腸が使用され、時に瀉血が加わる場合もある。アユルベーダはインドのほかバングラデシュなど南アジア諸国で実践され、インドでは専門の養成機関がある。