欧州の伝統医学
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 欧州はいうまでもなく近代西洋医学の発祥の中心であるが、前述したようにその治療理論の源流はアロパシー(alopathy)にある。この対語がホメオパシー(homeopathy)であるが、これは病状と同様な症状をおこす薬物を微量用いることにより治療を行うものである。一般には毒物と認知される薬物をごく少量用いて行うので毒物療法といわれることもある。日本薬局方収載の苦味チンキに配合されるホミカエキスは、欧州で古くから健胃薬として用いられてきたが、その用法は多分にホメオパシーの影響を受けたものといえる。全体としてホメオパシーの手法は、近代医学からみれば全く荒唐無稽に見えるかもしれないが、例えば発熱による体温を下げる場合、水や氷で冷やすのではなくむしろ暖めて発汗を促すことによって体温を結果的に下げるといったもので、決して非科学的とはいえないところもある。サウナ療法はこの一種ともいえる。ホメオパシーは欧州で古くから実践されてきた伝統医学の一手法であって、理論的に完成されたものではないが、19世紀初めにかなり広く知られるようになった。しかし、同時期にアロパシー医学である近代西洋医学が科学を基盤として発達するにつれ駆逐され衰退したが、近年再評価され多くの実践者が現れるようになった。ただし、体系的な医学理論があるわけではなく、民間療法の範疇を脱するものではない。とりわけ、ホメオパシー医学の伝統のないわが国では、医療事故が続出したため、日本学術会議会長の談話としてホメオパシーの治療効果を否定する報道がなされている(2010年8月25日、朝日新聞)。その他、欧州では植物療法(phytotherapy)、温泉療法、アロマテラピー(aromatherapy)など多くの伝統医学が民間療法として伝承されているが、医学としての歴史はいずれもそれほど古くはない。