漢方医学の将来は?
Last Update 2002/6/30→戻る

 さて、伝統医学と近代西洋医学は今後どのように住み分けていくのだろうか。欧米先進国の現状をみるとあたかも“伝統医学のルネッサンス”が到来したかのような印象を受ける。今なぜ伝統医学なのであろうか。これは近代西洋医学の弱点が顕在化したからに他ならない。近代西洋医学は症状と反対の作用をもつ薬物を投与することにより治療を行う、いわゆる典型的なアロパシー(allopathy)医学であり、近代科学の急速な発展とともに強い作用のあるアロパシー薬物が次々と生み出されてきた。そうした切れ味の鋭い薬物(大半は合成化学薬品である)による副作用は一方で患者に不快感、不安感をつのらせてきたばかりでなく、強い副作用の存在故に生活習慣病など慢性疾患に対してはさほど効果をあげていない。近代西洋医学は体の全体の診察による治療(holistic care)ではなく、研究室における成果をそのまま医療に直結させた対処的療法である。まして多くの致命的感染症が克服された(これは紛れもなく近代西洋医学の成果であるが)現在では、患者のニーズは単に病的症状の治癒だけではなく医療行為の過程において精神的充足感や満足度、安心感(いわゆるQOL;Quality of Life)を志向するようになった。また、伝統医学に近代科学のメスが加えられ、決して迷信や俗説ばかりでないことも明らかになってきた。こうしたことから近代西洋医学は決して万能ではないと考えられるようになったといえる。また、近代医学の発展とともに医療コストの増大も著しく、行政側からの厳しい批判の眼のあること無視できまい。しかし、近代西洋医学は今後も第一線医療(primary medical care)の地位を保持しつづけるであろう。何故なら、ドイツの例をみてわかるように近代西洋医学は伝承医学の長所を積極的に取り入れるなど柔軟性に富むからである。伝統医学の価値を再評価したのは伝統医学そのものではなく、近代西洋医学の基盤となっている近代科学である。つまり伝統医学は近代西洋医学の弱点を補う補助的医学(complimentary medicine)として存在感を強めつつ、近代西洋医学との住み分けにより存続するであろうと予想される。わが国においても医学部のコアカリキュラムに「漢方医学」が導入されることが確実となり、伝統医学の神髄で武装した医師が誕生しようとしている。こうなると、伝統医学は補助的医学ではなく、統合医学(integrated medicine)と称した方が適切かもしれない。