フジ(マメ科)
Wisteria floribunda (Fabaceae)

本州、四国、九州の山野に普通に生える壮大な落葉藤本(→画像)で日本固有種。葉は奇数羽状複葉で互生し、小葉は卵形~卵状長楕円形で全縁、5~9対ある。花期は5月で長さ20〜30cmの総状花序は垂れ下がり、基部から開花する。名の由来は“吹き散る”の意味といわれるが定かでない。万葉集にある敷治ふぢは本種あるいは同属種ヤマフジW. brachybotrysであり、古くは区別されなかったと考えらるのが妥当である。中国には本種と同属のシナフジWisteria sinensisがあり、その漢名を紫藤シトウを略し、フジに“藤”を充てたというウィキペディアの説明は誤りであり訂正されなければならない。まず紫藤は宋代の「開寶かいほう本草ほんぞう」で初めて収載され、それよりずっと古い万葉集で“ふぢ”を詠んだ歌が21首もある事実と明らかに矛盾することが挙げられる。この矛盾を解く鍵は「和名抄わみょうしょう」の「爾雅注云ふ、藟 和名布知 藤なり」という記述にある。“るい”とは特定の植物名ではなくつる性植物に対する総称であり、「爾雅じが」の注釈(具体的には郭璞注かくはくちゅうのこと)はそれを“とう”に同義としたのである。これだと万葉集に詠まれた“ふぢ”も特定の植物名ではないことになるが、詠まれた歌の情景からその全てをフジとして矛盾はないので、日本では固有名詞として用いられたと考えられる。ただし、つる性植物一般の呼称として「フジ」が多いという事実があり、“かずら”や“つづら”と同様に、本来の字義に基づいて「つる」の意味を保持した結果と推定し得る。詳細は拙著「和漢古典植物名精解」第19章第3節を参照。

fuji

→戻る(2005.5.5;相模湖町寸沢嵐)