【解説】 欧州~小アジア原産の多年草で、全体に短く粗い毛で覆われ、高さ40~70cmに達する。葉は長さ6〜20cm、幅は1〜2.5cm、披針形で先は尖って互生し、下部では葉柄があるが、上部では茎を抱く。花期は6月~10月、枝の先に集散花序をつけ、 花は先が5裂した小さな花筒で鮮やかな青紫色。萼片は5枚、雄しべは5個。果実は小堅果実で分離果となる。根はよく発達し、時に1mにも達し、色素を含み、染料や化粧品用に、葉には芳香がありポプリに利用される。『薬物誌』にはANCHOUSAとANCHOUSA ETERAの2名があり、前者は附図からわかるように、本種ではなくAlkanna tinctoria (synon. Anchusa tinctoria)である。ディオスコリデスはその薬能について、根に収斂性があってワックスと油で煮て火傷や潰瘍に用い、丹毒や白斑を治し、酢とともに塗りつけるとハンセン病を治し、膣坐薬にすると中絶薬になり、煎じて飲むと黄疸や腎炎に効果があり、発熱には蜂蜜と水とともに投与すると記載している。一方、ANCHOUSA ETERAは、ディオスコリデスが根が赤く非常に長いと記述しているように、本種に相当する。ETERAは古代ギリシア語の“ἕτερος” (heteros)に通じ「別の、他の」の意であり、真正のANCHOUSAに似た別の種類であることを示す。葉を食べあるいは飲んでおくと毒獣・毒蛇に噛まれた時に有効とあるが、ANCHOUSAに準じて使うこともあったと思われる。いずれの種もシコニンの鏡像異性体アルカニンという色素を含む。属名は古代ギリシア語の“ἄγχουσα” (ánkhousa)に由来し、『薬物誌』のANCHOUSAと同源である。種小名は「薬用」を意味する中世ラテン語に由来する。江戸末期の1818年、大槻玄沢・宇田川榛斎の建言により、オランダより取り寄せた薬草60種の中に“Affetong”および“Kleine affetong”があり、前者をBuglossumすなわち本種であり、後者は「小さな」という意の“kleine”を冠しているから、Alkanna tinctoriaか(「洋舶盆種移植の記」)。
引用文献:References参照。