ビロードモウズイカ(ゴマノハグサ科)
Verbascum thapsus (Scrophullariaceae)

biroudomouzuika

→戻る(2004.6.23;帝京大学薬用植物園)

【解説】 欧州〜北アフリカ、西アジア原産の2年草で全体が白色の綿毛で覆われている。葉は基部では短柄でロゼット状になるが、上部では無柄で互生して長さ5~30㎝の倒披針形、全縁。茎先に長さ20~30㎝の総状花序をつけ、5裂した花冠の黄色の花を密につける。塾すると長さ7~10㎜の卵形の蒴果さくか をつける。星状毛が密生して中に小さな種子を多く含む。同属ハーブにクロモウズイカがある。モウズイカは漢字で毛蕊花と表され、花糸(“おしべ”すなわち雄蕊ゆうずいの一部で、子房の基部から伸びて先にやく をつける糸状のもの)に毛が生えていることに由来し、さらに軟らかい白毛が密生する茎・葉を表してビロードを冠した。『薬物誌』はPHLOMOSのほかに、LEUKE THELEIA、LEUKE ARREN、LEUKE MELAINA、AGRIAの4名を載せる。ディオスコリデスはPHLOMOSを「白」と「黒」に分別し、「白」はさらに雄性と雌性があるとする。LEUKEは古代ギリシア語の“λεύκη”で「白」の意、MELAINAは同“μέλαινα”で「黒」、 ARREN (“άρρεν”)は雄性、THELEIA (“τηελεια”)は雌性の意だから、PHLOMOS LEUKE THELEIAとPHLOMOS LEUKE ARRENはそれぞれ「白で雌性」および「白で雄性」のPHLOMOSとなる。おそらくPHLOMOS LEUKE MELAINAはPHLOMOS MELAINAの誤りで「黒」のPHLOMOSであろう。一方、AGRIA (“άγρια”)は“άγριος” (ágrios)に通じ「野生の」という意味であり、ディオスコリデスは“茎が高く木のようで、葉はセージに似て、花は黄色、丸い葉を根生する”と記載しているので、ビロードモウズイカ属の野生種に言及していることは間違いない。附図Verbascum属の各種の特徴を混記したものかと思われる。PHLOMOS ETEROSとある附図はまさしく本種であるが、ETEROS (ἕτερος)は古代ギリシア語で「他の」という意味だから、非薬用だったかもしれない。また古代図としては写実的すぎるので、後世に書き加えられた可能性がある。薬能については、葉を水で煎じたものは浮腫、目の炎症に、また蜂蜜やブドウ種に和したものは潰瘍によいとある。また葉を貼り薬とすれば火傷に効くともいう。属名“Verbascum”の語源は、「ひげを生やす」という意味のラテン語の動詞“barbesco”が転訛したものといわれ、本種の葉、茎、ほうの毛深い表面を指すと考えてよい。一方、種小名は古代ギリシア語のΘάψος (Thápsos)に由来、シチリア島にあった町名という。江戸末期の1818年、大槻玄沢・宇田川榛斎の建言により、オランダより取り寄せた薬草60種の中に“Wolle kruid” (Verbascum)の名が見え、本種とともにクロモウズイカも渡来したと思われる(「洋舶盆種移植の記」)
引用文献:References参照。