【解説】 東南アジア原産とされる1年草。茎に稜があって直立し長い毛が生える。葉は先が尖った広卵形で対生につき、縁に鋸歯があり、葉の基部は丸く短い葉柄がある。葉は表面は緑色だが、裏面はやや赤紫色がまじり、類縁種のアオジソより厚くハリがある。花期8~9月、白色の花を総状に多数つける。花冠は長さ4〜5mm、花弁は4枚(→花の拡大画像)。漢名は『名醫別錄』に上品として収録された荏子で本種の種子を基原とする。種子は脂肪油を約40%含み、乾性油エゴマ油の原料とする。エゴマ油はヨウ素価200前後で高く、乾燥性が強いので油紙、雨がさなどに用いる。近世以前のわが国でいう植物起源の油はエゴマ油であり、ナタネ油が普及するまでは灯火用に広く用いられた。武蔵国荏原郡ほか全国に存在する“荏原”の地名はエゴマの自然分布あるいは栽培に由縁があると考えられ、『延喜式』には各国から大量の荏子の献上が記録されている。『本草和名』では「荏子 和名於保衣乃美」とあり、一方で紫蘇を“以奴衣一名野良衣”と称し、その名の付け方から近縁種のシソより上位と見なされていたことがわかる。わが国に野生する近縁種としてレモンエゴマがある。属名は、実がなる萼の形にちなみ、ラテン語で「袋」を意味する女性名詞“pera”に女性形の接尾辞“illa”を付したものに由来する。この場合の接尾辞は名詞の基本的な意味を変えることなく、単に小さなものや愛しいものを示すために付けられた。一説にインド東部の地名に由来するという。一方、種小名はラテン語で「低木」を意味する“frutex”と「〜になる」という意の起動動詞の接尾辞“-ēscō”を付したものから派生し、成長すると「低木のようになる」という意味である。
引用文献:References参照。