ハナハッカ(シソ科)
Origanum vulgare (Lamiaceae)

hanahakka

→戻る(2005.7.24;英国王立キュー植物園)

【解説】 地中海沿岸地方原産とされる多年草。茎に4稜あり短毛が密生する。葉は長さ1.5cmほどの小さな卵形で対生し、縁は全縁ないしまばらに小鋸歯があり、先は鈍形で、表面に細かい毛が生えたものと滑らかなものとがある。花期は7〜10月で、枝分かれした花茎の先に長円形の穂状花序を形成し、小さな紫を帯びた淡紅色から白色の唇形花を多くつける。葉を薬用とする一方で、一般にはOreganoオレガノの名で、香辛料としてメキシコ料理やイタリア料理などに用いられる。因みに、オレガノは属名の由来となった古代ギリシア語の“ὀρῑ́γᾰνον” (orī́ganon)に基づく。山を意味する“ὄρος” (óros)と喜びを意味する“γάνος” (gános)からなる複合語で、“山の喜び”の意とする説があるが、一方でいずこかの借用語を勝手に意味付けしたbackronymバックロニムと一蹴する説も根強い。『薬物誌』にはORIGANOS ELAKLEOIKE、ORIGANOS ONITIS、AGRIORIGANOS、TRAGORIGANOSという“ORIGANOS”を核に何らかの意の形容詞を付した4種の類名が収載されている。まずELAKLEOIKE (“ελακλεοτικε”)はラテン語ではheracleoticumとなり、アカルナニア地方の古代ギリシアの都市“Ἑράκλεα”に由来、おそらく同地方の産出品と思われ、Origanum heracleoticumに比定され、附図1とよく合致する。体を温める薬能があり、イチジクとともに食べるとけいれん、ヘルニア、水腫を治し、蜂蜜とともに摂取すると腸から黒い体液を排出し、月経を促進し、咳を改善するほか、さまざまな効果を記載する。ONITIS (“ὀνῖτις”)は大プリニウスが記載したオレガノといわれるが、heracleoticumと同じ薬能をもつとはいえ、効果は劣るといい、ディオスコリデスが大プリニウスへの対抗心をあらわにして記載したことがうかがえる。O. onitesに比定されるが、確かに附図2によく似る。AGRIORIGANOS (“άγριορῑ́γᾰνος”)は「野生の」という意の“άγριος” (ágrios)を冠するから野生のオレガノとなるが、ディオスコリデスによれば、茎は細く高さ20cmほど、ディル(イノンド、あまり似ていない)に似た房をつけ、花は白くて根は細いという。すなわち本種は、サイズからいえば、これにもっともよく該当するが、効果がないといい、種小名の“vulgare”は普通にある(英語でいえばcommon)というだけではなく、品質も表したと思われる。最後のTRAGORIGANOSは、山羊の意の“τράγος” (trágos)を冠し、年配の男性の耳珠じじゅに生えている毛の房を山羊のヒゲに見立てたというが、附図3O. majoranamに酷似し、特徴ある花序をヒゲすなわち老人の耳珠の毛に見立てるのは納得がいく。同一項にTRAGORIGANOS ALLOSがあり、「他の」という意の“ἄλλος” (állos)を付す。研究者によってはこれをThymus tragoriganum (synon. Satureja thymbra)に充てる。
引用文献:References参照。