【解説】 北海道以南の本邦各地の山地草原に生える多年草。茎に四稜あり、下向きに毛が密生する。葉は単葉の広卵形で先が尖って対生し、縁に鋸歯がある。花期は9~10月で、茎の上部や葉腋から円錐花序を形成し、淡紫色の小さな唇形花をまばらにつける。萼は5裂し、雌しべは1個で雄しべは4個あり、うち2個は外に長く突き出る。熟すと萼筒の底部に四分果がつく。全草を延命草と称し、わが国で古くから苦味健胃薬として用いられてきた。苦味の本体はエンメインという変形カウラン系ジテルペンであり、抗腫瘍作用なども報告されている。分類学的にはセキヤノアキチョウジやヤマハッカと同属である。和名は弘法大師が諸国行脚の道中で出会った病で苦しむ旅人に、近くに生えていたこの草を服用させたところ、快癒して旅を続けたという『和漢三才圖繪』(寺島良安、1712年)にある故事に由来し、和製漢名の“延命草”とともに“ヒキオコシ”の名を載せる。因みに、“ヒキオコシ”は“引き起こし”、すなわち倒れ伏せていたのを蘇生することで、本種が特効のある薬草であることを誇張する名である。属名は古代ギリシア語で「等しい」を意味する“ἴσος” (ísos)と「歯」を意味する“ὀδών” (odṓn)との複合語に由来し、
萼片が歯のように等しく裂けているのを表したと思われる。
引用文献:References参照。