ヒキオコシ(シソ科)
Isodon japonicus (Lamiaceae)

hikiokoshi

→戻る(2004.10.2;帝京大学薬用植物園)

【解説】 北海道以南の本邦各地の山地草原に生える多年草。茎に四稜あり、下向きに毛が密生する。葉は単葉の広卵形で先が尖って対生し、縁に鋸歯がある。花期は9~10月で、茎の上部や葉腋から円錐花序を形成し、淡紫色の小さな唇形花をまばらにつける。がくは5裂し、雌しべは1個で雄しべは4個あり、うち2個は外に長く突き出る。熟すと萼筒がくとうの底部に四分果がつく。全草を延命草エンメイソウと称し、わが国で古くから苦味くみ健胃薬けんいやくとして用いられてきた。苦味の本体はエンメインという変形カウラン系ジテルペンであり、抗腫瘍作用なども報告されている。分類学的にはセキヤノアキチョウジヤマハッカと同属である。和名は弘法大師が諸国行脚の道中で出会った病で苦しむ旅人に、近くに生えていたこの草を服用させたところ、快癒して旅を続けたという『和漢わかん三才さんさい圖繪ずえ(寺島良安、1712年)にある故事に由来し、和製漢名の“延命草”とともに“ヒキオコシ”の名を載せる。因みに、“ヒキオコシ”は“引き起こし”、すなわち倒れ伏せていたのを蘇生することで、本種が特効のある薬草であることを誇張する名である。属名は古代ギリシア語で「等しい」を意味する“ἴσος” (ísos)と「歯」を意味する“ὀδών” (odṓn)との複合語に由来し、 萼片がくへんが歯のように等しく裂けているのを表したと思われる。
引用文献:References参照。