【解説】 中国原産の常緑多年草。根茎から細長い茎を叢生し、長い葉柄の先に1〜3回3出複葉をつける。小葉は矢じり形で、縁に鋭い鋸歯がある。茎の途中から長い花柄を出し総状花序をつける。白い内萼片と黄色い花弁をもつ小さな花を下向きにつけるが、 距は短く錨形にならない。全草を淫羊藿と称し、強壮、強精薬として陰萎、男性不妊、月経不順などに用いる。本草では『神農本草經』の中品に収載され、『本草和名』は「淫羊藿 和名也末止利久佐」の和訓をつけた。しかし、本種はわが国に自生しないので、邦産する同属種イカリソウ (Epimedium grandiflorum var. thunbergianum)を和淫羊藿と称し代用とした。『和爾雅』(1688年)では淫羊藿に“イカリクサ”の訓をつけ、それが邦産種の和名の由来となった。『本草綱目啓蒙』(小野蘭山、1803年)に「花戸ニ唐種ノ淫羊藿ト呼ブモノアリ。葉、和産ヨリ長大ニシテ厚シ。六葉ノ端ニ四出ノ小花數多ク穗ヲナシテ直生ス。〜イカリサウノ花形ト大ニ異ナリ〜」(巻之八「草之一」)とあり、19世紀初頭までに本種が伝わっていたことを示す。『梅園草木花譜』(1833年)の春之部四に載る「淫羊藿 一種 漢種白花ノ者」とあるものは本種と思われる。属名は古代ギリシア語の“ἐπιμήδιον” (epimēdion)に由来するが、そのラテン名であるepimediumも含めて語源は不詳である。種小名は、「槍」を意味するラテン語の “sagitta”に由来し、矢の形をした葉を指す。因みに、『薬物誌』にあるEPIMEDIONに対して、通説はEpimedium alpinumを充てる。しかし、ディオスコリデスは茎にcissus(古代ギリシア語:“Κισσός”、ツタのこと)に似た葉を10~12枚つけると記述し、その特徴は附図におぼろげながらも反映されているが、およそEpimedium属には見えない。
引用文献:References参照。