セイヨウジュウニヒトエ(シソ科)
Ajuga reptans (Lamiaceae)

seiyojunihitoe

→戻る(2005.4.29;八王子市南大沢)

【解説】 欧州原産の多年草。葉は倒披針形〜へら形で対生し、縁に浅鋸歯がある。花期は4~6月で、茎頂に花茎を出し、対生する葉状の苞の脇に青紫色の唇形花を多数、穂状に付ける。和名は在来種ジュウニヒトエに似た西洋産種の意。『薬物誌』ではCHAMAIPITUS、CHAMAIPITUS ETERAまたはCHAMAIPITUS TRITEに相当するとされ、葉をブドウ酒とともに7日間服用すれば黄疸を治し、煎じて蜂蜜水とともに40日間飲むと股関節の痛みを治し、肝臓の不調、頻繁な排尿痛、腎臓の炎症に効き、トリカブトに対する解毒剤になるという。CHAMAIPITUS (“χαμαίπιτυς”)の字義は「大地の」を意味する“χαμαί” (chamae)とマツを意味する“πίτυς” (pitys)との複合語に由来し、植物全形がマツの枝振りを彷彿させるからという。この意味でいえばCHAMAIPITUSは、葉が線形で地を這うように生えるAjuga chamaepitysにもっとも合致する。ディオスコリデスによればマツの香をもつといい、英名で“ground pine”と呼ぶのもこれによる。ほかの2種は形容詞がつくが、ETERAは“ἕτερος” (heteros)に通じ「別の、他の(第二の)」、TRITEは“τρίτος” (trítos)すなわち「第3の」の意である。第二のCHAMAIPITUSたるCHAMAIPITUS ETERAについてディオスコリデスは草高1フィートに達するというから本種に適合し、英名は“common bugle”すなわちもっとも普通のジュウニヒトエの仲間の意である。第三のCHAMAIPITUS TRITEは、黄色の花をつけ小さいとディオスコリデスは記述しているから、通説にいうAjuga ivaでよいだろう。属名は“A-juga”に由来し、古代ギリシア語で“ἀ- (a-)”は“without”の意、ラテン語で“jugum”は「くびき」を意味するので、「牛のくびきがない」とリンネが解釈してつけたという。本種および同属種は、がくが分裂せず1枚の花弁であること、つぼみを囲む萼片がくへんがつながっていないことなどを暗示すると説明されているが、古代ギリシア語とラテン語の合成名はあまり例がなく、Plinius the Elder大プリニウスが別の植物につけたた古ラテン語の名前“Abiga”(abigere;「払い除ける」という意)の転訛とする説も根強い。種小名はラテン語の“rēptāns”に由来し、「這う」という意であるが、匍匐茎をもち地表に広く広がって成長することをいう。
引用文献:References参照。