シロバナムシヨケギク(キク科)
Tanacetum cinerariifolium (Asteraceae)

shirobananomushiyoke

→戻る(2004.6.23;帝京大学薬用植物園)

【解説】 ダルマチア(アドリア海沿岸)原産といわれる多年草で、高さ50cm~1mほどになる。根生葉は叢生し長い葉柄がある。茎葉は互生して2~3回羽状に深裂〜全裂し、裂片は線形で鋭頭、下面に毛が密生する。花期は初夏、長い花茎を出して先端に径3cmほどの頭状花序をつける。黄色い筒状花が平らな円盤状に密集し、その周りを白色の舌状花が囲む典型的なキク科の頭花の特徴を表す。別名を除虫菊と称するように頭花を殺虫剤とする。和名は「白花虫避け菊」に由来し殺虫剤としての用途に因む。殺虫成分としてピレスリンなどの変形モノテルペンを含む。『薬物誌』はPURETHRONについて野生のニンジンDaucus carotaのような茎と葉、Dillディルイノンド)のような房を出すハーブと記述し、附図は少々不正確ではあるが、本種に充てるのは妥当と考えられる。PURETHRONは古代ギリシア語で“熱”を意味する“πυρετός” (puretós)に通じ、ディオスコリデスが記述しているように、噛むと口の中が焼け付くようになる独特の風味を表した。ディオスコリデスは去痰作用があり、噛むと痰が排出され、酢と煮てうがい薬として使用すると歯痛に効果があり、油に混ぜて体に擦り込むと発汗を促すので、寒気や麻痺に対して効果があると記載している。属名は、ラテン語で「不死」を意味し、本種がかつて害虫を追い払うために死者の埋葬シートの間に置かれていたことに由来するという。本種の種小名に英語で「骨壷の」という意の“cinerary”が用いられているのも納得がいく。古代ギリシア語の“ἀθανασία” (athanasía)は、否定の接頭辞“ἀ- (a-)”を、古代ギリシャ神話において死を擬人化したキャラクターとして知られる“θάνατος” (Thanatos)に付し、“immortal”すなわち不死身の意とした。“athanasía”が中世ラテン語の“tanazita”に転じ、属名とともに“tansyタンジー”の一般名が発生したと推定される。江戸末期の1818年、大槻玄沢・宇田川榛斎の建言により、オランダより取り寄せた薬草60種の中に見える“Bertoram”はPyrethrumすなわち本種であり、わが国への初めての渡来の記録である(「洋舶盆種移植の記」)
引用文献:References参照。