ストエカスラベンダー(シソ科)
Lavandula stoechas var. stoechas (Lamiaceae)

sutoekasu

→戻る(2004.5.24;東京都薬用植物園)

【解説】 欧州地中海沿岸原産の常緑低木で、高さ30~100cmになるが、水平方向にも広く茎を伸ばす。葉は長さ1~4cm、灰色がかって微綿毛があり、縁は全縁、対生であるが、枝腋によく束生し、葉身の形は線形から披針形まで多様である。花期5~6月で、花はピンクから紫色、葉のない細長い茎の先端に長さ2〜5cmの円筒形〜紡錘形の穂状花序をつけ、輪散花序状に6~14個の花を密につける。長さ4~8mmの苞葉が各花を包み、花穂の先に明るい赤紫色で長さ10〜50mmの大きな不稔の苞葉ほうようがある(→花の拡大画像。属名は古フランス語の“lavandre”に関連があるとされ、その起源はラテン語で“洗う”という意の“lavare”に由来し、古くは本種の浸出液で衣服などを洗ったからという。種小名の“stoechas”は古代ギリシア語の“στοιχάς” (stoichas)に由来して“幾列にもなって”という意で、本種のユニークな花の配置形を表すと考えられる。全草に精油を含む。ラベンダー油の原料となるのは、主として同属別種のL. angustifoliaであり、花から採取する。かっては鎮痛鎮痙薬などに用いられたが、現在ではもっぱら香料として用いる。『薬物誌』ではSTOICHAS(附図)とあり、煎じ汁は胸痛に効くと記載されている。酢に作ったものをOXUS STICHADIKONと称し、またワインに作ったものはPINOS STICHADITESと称して脇腹や神経の痛み、極度の寒さに耐え、てんかんに有効という。一般名としてフレンチラベンダーと呼ぶことが多いが、ここでは種小名を冠した和名を採用する。因みにストエカスの名は本種を含む類縁種が自生するマルセイユ沖の小さな群島の名(“Στοιχάδες”; Stoichades)に由来し、古代ではGalliaガリアと呼ばれた辺境地域であった。江戸末期の1818年、大槻玄沢・宇田川榛斎の建言により、オランダより取り寄せた薬草60種の中に見える“Lavendel”が本種のわが国への初渡来の記録である(「洋舶盆種移植の記」)。以上の詳細は総説「カミツレ、サフラン、ローズマリーの渡来と語源」を参照。
引用文献:References参照。