サボンソウ(ナデシコ科)
Saponaria officinalis (Caryophyllaceae)

zabonsou

→戻る(2004.6.12;花:2010.6.10;帝京大学薬用植物園)

【解説】 欧州原産の多年草。葉は無柄、卵形~卵状披針形で長さは4~12cmで対生し、通例、鮮明な3(〜5)脈あり、基部は漸鋭尖形、先は鋭く尖り、縁は全縁である。3〜7個の花で集散花序を形成し、甘い香りのする花は放射相称で、ピンク色、時に白色を呈する(花の拡大画像)。がくは長さ約2cm、幅は約3mmの筒状で5つの尖った歯がある。萼筒がくとうに収められた花冠はその末端の開口部で平らな5枚の花冠を出し、雄しべと花柱が開口部から大きく突き出る。西洋では根をサポナリア根と称し薬用にされた。『薬物誌』ではSTROUTHION(附図)に相当し、羊毛を洗浄するために使い、根は収斂作用と利尿作用があり、蜂蜜とともに摂取すれば肝臓疾患、咳、喘息、便通をよくし、結石を砕いて尿中に排出させ、硬くなった脾臓を柔らかくし、(膣坐薬にすれば)通経して中絶することもできると記載する。またくしゃみを誘発するので、搗き砕いて蜂蜜とともに鼻腔に入れると、口から汚物が排出されるともある。STROUTHION (“στρουθίων”)は古代ギリシア語ではスズメの意で、本種とは無縁に見えるが、英語でアスパラガスをsparrow grassという感性に通じるのかもしれない。ナデシコ科のソープ植物として知られるGypsophila struthiumの種小名に採用されているからここでは石鹸の意と考えておく。因みに本種の属名はラテン語で石鹸を意味する“sāpo”でであり、葉にサポニンが多く含まれ、古くから洗濯用に用いられてきた歴史がある。石鹸は戦国時代末期にポルトガル人によってわが国に伝えられたといわれる。『多識編たしきへん(新井白石、1631年)に「石鹸 今案ずるに波伊乃ハイノ加多カタ末里マリ、又云く岐奴阿キヌア良比ラヒ波伊ハイ。是れけだし今、南蛮より来る志也しや保牟ぼんの類か。〜」(巻之一「土部第四」)とあり、“しゃぼん”の訓がつけられ、今日でもシャボン玉にその名が残る。ただし、新井白石は石鹸を“灰の塊”とし、西洋の“しゃぼん”も同類だろうかと疑問をもって記述していることに留意する必要がある。中国では『本草ほんぞう綱目こうもく(李時珍)石鹼セッケンが載る(巻第七「土之一」)が、焼灰汁に粉麺を加えて固化したものであり、今日いう石鹸とはおよそ似て非なるものである。『説文せつもん解字かいじ』に「鹼はなり」とあるように、少なくとも古い時代の中国の石鹸は天然ソーダのような塩基性の岩塩であった。『海國かいこく圖志ずし(19世紀)に「樹油 番鹼を造るべし(巻第三十三;樹油はココヤシなどから得た脂肪油であろう)とある“番鹼バンケン(=蛮鹼)こそ“シャボン”に相当し、中国ではいわゆる石鹸ソープを番鹸と称したのである。すなわち『多識編』は、漢籍を博捜した結果、『本草綱目』の“石鹼”を見出して舶来の“シャボン”に漢語を充てたにすぎなず、決して正鵠を射た用語ではなかった。因みに、現代中国語では肥皂Féizàoといい、石鹸はわが国独自の用語であることがわかる。シャボンの語源については、通説ではポルトガル語で石鹸を意味する“ sabãoサバオ”の訛りとするが、スペイン語の“jabónハボン”に由来するという説もある。音ではポルトガル説に分があるが、“jabón”が“ジャボン”と読まれたとすれば、容易に“シャボン”に訛るから、軍配はスペイン語説に傾くだろう。
引用文献:References参照。