近年のライフスタイルの急激な変化もあって食品の中で短時間で調理できる加工食品の占める割合が飛躍的に大きくなった。加工食品は新鮮食品とは異なり一定期間の保存を考慮しているので酸敗などの食品劣化や細菌の増殖を防ぐため添加物の使用は必須である。しかし、一方で毎日摂取の可能性のある食品を対象とするだけに高まりつつある消費者の安全指向も考慮する必要がある。当研究者はかかる観点から食品、嗜好品や汎用生薬類などに含まれる天然物質を食品添加物として使用するのが最適と考え、その応用開発研究に着手した。食品の酸敗は主に微生物の増殖による腐敗と、食品中に含まれる三大栄養素の一つである不飽和脂肪酸類の過酸化による劣化の結果として起きるので、抗菌抗酸化作用を指標とした。スクリーニングの対象としては、古来繁用されている生薬のほか山菜など歴史的に食品として用いられた実績のあるものを選んだ。その結果、古来世界的に繁用されてきた生薬甘草の非配糖体画分に顕著な活性を見い出した。1)生薬甘草の主要基原植物としてマメ科Glycyrrhiza uralensis Fischer ex de Candolle、G. glabra Linné、G. inflata Batalinが知られている2)が、このうち旧ソ連産のG. inflataについては同様の趣旨で研究を行っている。3)ここでは欧米において歴史的に用いられてきたG. glabraを基原とする甘草について更に詳細な成分情報を明かにし、その抗菌、抗酸化作用について評価を行った。また、1990年に米国国立癌研究所が中心となって組織されたデザイナーフーズ計画においては癌予防を目的としてデザインされた植物成分を含む食品や生薬類を重要度により区分けしこれらを用いた癌予防効果に関する基礎研究が発足したが、ここでは甘草(G. glabraを基原とするもの)が第I類に列せられていることも付記する。
前述したように、食品中の不飽和脂肪酸類は過酸化の連鎖反応により過酸化物に変換されて酸敗の一因となるのであるが、生体内でこれと同様の機構で起きるものに脂質過酸化(lipid peroxidation)がある。脂質過酸化は細胞や組織におけるフリーラジカル生成の結果として起きる反応であり、活性酸素の不飽和脂肪酸への攻撃により生成したペルオキシラジカルが更に連鎖反応を起こすことにより過酸化物が増殖する。4)細胞や各器官の膜組織を構成する膜脂質では適度の流動性を確保するため不飽和脂肪酸の割合が高く、更にP-450を始め各種酸化酵素及びそれをサポートする電子伝達系が会合し活性酸素やフリーラジカルを頻繁に生成するためとりわけ過酸化を受けやすい。生体膜の最も重要な構成要素である不飽和脂肪酸の過酸化は膜の基本構造及び機能を著しく損い様々な疾患を引き起こす原因となる。5)これまでに脂質過酸化の連座が指摘されている病理疾患として冠血管硬化症、真性糖尿病、慢性腸炎などが挙げられ、6)また老化や発癌過程においても重大な関連があるとされる。従って、脂質過酸化を阻止することができればそれに起因する多くの病気を予防できることになる。脂質過酸化はラジカル捕捉剤や抗酸化剤による活性酸素の失活、脂質過酸化物を増殖させる連鎖反応系の阻害により抑制することができ、実際、実験動物系においてはある種の抗酸化剤の投与により発癌や冠動脈性心疾患の予防及び実験的心筋裂傷から心筋層を保護するのに有効であることが報告されている。7)このため、抗酸化剤は癌や成人病など各種疾患の予防という観点から注目されつつあり、とりわけ安全性が高く長期投与が可能な抗酸化剤として食品や古来汎用されてきた伝承医薬に含まれる抗酸化作用物質に強い関心が寄せられている。かかる背景から生薬甘草に含まれる抗酸化作用成分に関しては、食品添加物として応用することにより食品を通して日常的に摂取することで癌など各種疾患の予防効果が期待できるのではないかという観点から、単なる化学的脂質過酸化抑制のみならず、各種の生物学的抗過酸化試験法に供しその活性を詳細に検討することとした。
(1)G. glabraを基原とする甘草の化学成分の解明
旧ソ連産甘草はG. glabraの根茎を基原とし、欧州から中央アジアにおいて古くから生薬甘草(licorice)として用いられてきたものである。わが国へは甘味成分グリチルリチンの抽出原料として大量に輸入されている。本研究における研究材料として市場品を購入し、破砕した後、塩化メチレンにて室温下で抽出した。抽出物150g(乾燥試料5~6kg相当)について、シリカゲルカラムにより粗分画を行い、更に各フラクションをセファデックスLH-20によるゲルろ過クロマトグラフィー、順相および逆相シリカゲルを用いたフラッシュクロマトグラフィーに供した。構造解析は1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)、IR(赤外分光スペクトル)、UV(紫外線吸収スペクトル)、MS(質量分析)などの機器分析により行った。
(2)G. glabraを基原とする甘草成分の抗菌作用試験
抗菌作用試験においては旧ソ連産甘草の主要成分であるイソフラバン誘導体RL-A (glabridin)、RL-B (hispaglabridin A)、RL-C (hispaglabridin B)、RL-D (4'-O-methylglabridin)、RL-E (3'-hydroxy-4'-O-methylglabridin)とフラバノン誘導体RL-G (glabrol)、RL-H (shinflavanone)の7種について検討した。
活性試験には次の試験菌を使用した。グラム陽性細菌:Staphylococcus aureus、Bacillus subtilis;酵母:Saccharomyces cerevisiae、Candida albicans;かび:Mucor pusillus、Aspergillus niger;う蝕菌:Streptococcus mutans;乳酸菌:Lactobacillus plantarum、L. rhamnosus。抗菌活性は標準寒天培地を用いた希釈法により最小発育阻止濃度(MIC)を求め、評価した。培養は、細菌は30℃、2日間、酵母およびかびは同温度、4日間培養した。
(3)G. glabraを基原とする甘草成分の抗酸化作用試験
a)リノール酸の酸化抑制作用試験
リノール酸の緩衝液を数日間40℃でインキュベートし、Fig. 1のスキームに示したように過酸化物をチオシアネート法にて定量し、無添加のコントロールに対する阻害率として表わした。
b)xanthine oxidaseにより生成された スーパーオキサイドアニオン(SO2-)の捕捉作用試験
xanthine-xanthine oxidase系により生成するSO2-がnitroblue tetrazolium (NBT)と反応して生成する青色色素formazanを定量することにより間接的にSO2-の生成量を求め、被験物質によるSO2-捕捉活性を評価する。反応液は3mLの最終溶液量に対して40mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH 10.2)、0.1mM xanthine、0.1mM EDTA、25mM nitroblue tetrazolium、150mgのBSAを含み、3.3 x 10-3単位のxanthine oxidaseをを加えることにより25℃、20分間反応させる。6mM CuCl2を0.1mL加えて反応を停止させ、560nmにおける吸光度を測定する。
c)ラット肝ミトコンドリアを用いた抗脂質過酸化作用試験
ミトコンドリアにおける脂質過酸化はTakayanagiらの方法8)を改良して行った。rotenoneにより電子伝達系を遮断し、ADP-Fe3+の存在下でNADHの酸化に伴うミトコンドリア脂質過酸化をTBA法にて定量する。蛋白量にして0.3mgのラット肝ミトコンドリア粒を0.05M HERPES-NaOH緩衝液(pH 7.0)、2mM ADP、0.1mM FeCl3、10mM rotenoneを含む1mLの反応液中に加え、最終濃度0.1mMとなるようNADHを添加することで反応を開始させる。37℃、5分間インキュベートした後、ミクロソームにおける脂質過酸化の場合と全く同様にTBA法にて求める。
d)ラット肝ミクロソームを用いた抗脂質過酸化作用試験
ラット肝ミクロソームにおける脂質過酸化についてはNADPH依存過酸化、アスコルビン酸誘導過酸化、四塩化炭素誘導過酸化、t-butyl hydroperoxide誘導過酸化の4つのアッセイ系を用いて旧ソ連産甘草成分の抗酸化作用を評価した。アッセイ法についてはScheme 1、2に示す。
e)ラット肝ミクロソームを用いた抗スーパーオキサイドアニオン(SO2-)作用試験
0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH 7.7)、0.1mM EDTAと30mM succinoylated ferricytochrome cの混合物にに0.4mg/mLの最終濃度となるようラット肝ミクロソームを加えて反応液を調製し、37℃、30秒インキュベートした後、最終濃度0.2mMとなるよう電子供与体としてNADPHを添加し、その結果生成するSO2-によるsuccinoylated ferricytochrome cの還元を550nmと557nmの吸光度の差でもって定量する。succinoylated ferricytochrome cの還元がSO2-によるものか、あるいは直接酵素によるものかは過剰量のSODを加えることにより区別することができる。9)
f)赤血球膜の保護作用試験
Fig.3のスキームに示すように健康ヒト赤血球を用いて赤血球膜の保護作用試験を行った。
(1)G. glabraを基原とする甘草の化学成分について
これまでに知られているものに加えて、新規物質としてイソフラバノン誘導体RL-Q、RL-R、3-アリルクマリン誘導体RL-U、クロマン誘導体RL-Vを単離し、1H-NMR、13C-NMR、MS、IR、UVを用いた分光学的手法によりそれぞれChart 2に示すように構造決定した。RL-Vは極微量物質であり本甘草の主成分であるglabridinの生物学的分解代謝物と推定される。ここにこれまでに当研究者が得たものも含めて全ての成分の構造を示す(Chart 1)。
(2)G. glabraを基原とする甘草成分の抗菌作用について
本甘草のイソフラバン、フラバノン誘導体7種について抗菌活性を検討し、その結果を表1に示す。
本試験においては主成分であるglabridinが広い抗菌スペクトルを示し、甘草エキスの抗菌活性は主としてglabridinの存在によることがあきらかとなった。一般に抗菌作用はイソフラバン誘導体の方が強い傾向を示したが、その中でフラバノンglabrolはう蝕菌に対しては強い活性を示した。
(3)G. glabraを基原とする甘草成分の抗酸化作用について
a)リノール酸の酸化抑制作用試験
RL-A、RL-B、RL-C、RL-D、RL-E、RL-G、RL-Hについて行った結果をFig. 1に示すが、いずれの成分にも顕著な活性が見られた。特にRL-A、RL-B、RL-Eのイソフラバン誘導体はa-tocopherolに匹敵する強い活性を示した。
b)xanthine oxidaseにより生成されたスーパーオキサイドアニオン(SO2-)の捕捉作用試験
RL-A、RL-B、RL-C、RL-D、RL-E、RL-F、RL-G、RL-L、RL-Mについて行った結果は表2示す。本アッセイ系で試験した化合物の中でSO2-の捕捉作用を示したのはRL-Mのほかフラバノン、カルコン誘導体がごく弱い活性を示したのみで、RL-A (glabridin)ほかイソフラバン誘導体には顕著な活性は見られなかった。
c)ラット肝ミトコンドリアを用いた抗脂質過酸化作用試験
RL-A、RL-B、RL-C、RL-D、RL-E、RL-F、RL-G、RL-L、RL-Mを用いたミトコンドリアにおける抗脂質過酸化作用試験の結果(表2右)ではRL-Gを除いて顕著な活性を示した。その中で、RL-E、RL-MはIC50がそれぞれ0.1mM、0.03mMと特に強い活性を示した。
d)ラット肝ミクロソームを用いた抗脂質過酸化作用試験
RL-A、RL-B、RL-C、RL-D、RL-E、RL-F、RL-G、RL-L、RL-Mについて試験した結果を表3に示す。RL-Mはいずれの系においても顕著な活性を示したが、RL-A、RL-B、RL-D、RL-EではNADPH及びアスコルビン産誘導の脂質過酸化だけに活性が見られた。一方、RL-F、RL-G、RL-Lにはいずれにもほとんど活性は見られなかった。
e)ラット肝ミクロソームを用いた抗スーパーオキサイドアニオン(SO2-)作用試験
キサンチンオキシダーゼ系の場合と同様にRL-Mだけが抗SO2-作用を示した(Fig.2右側がRL-M、左はエキス)。
f)赤血球膜の保護作用について
細胞レベルでの抗酸化作用を検討する目的で、健康なヒト血液より調製した赤血球の溶血保護作用について調べた。赤血球は酸素分圧が高く、酸化反応の触媒である鉄が豊富なこともあって一旦正常な代謝が乱れると活性酸素が生じやすいので、不飽和脂肪酸の多い赤血球膜は過酸化を受けやすくその結果として溶血にいたる。実際、ラジカルイニシエーターであるAAPHを加えて赤血球を5時間インキュベートすると90%以上の赤血球が溶血する。Fig.3に示すように、G. glabraを基原とする甘草の脂溶性画分(PT ext.)は顕著な赤血球膜の保護作用を示したが、成分レベルでのアッセイは赤血球に対する直接作用がありできなかった。
Glycyrrhiza属植物にはグリチルリチンという甘味成分を含有するものと含有しないものに大別され、一般にグリチルリチン含量の高いものが薬用甘草に供せられている。現在では主としてG. uralensis、G. inflata、G. glabraの3種が薬用とされている。これら3種にはグリチルリチン以外の二次代謝成分も多く含まれるが、これに関しては成分相は全く異なる。G. inflataは特異的な成分群であるレトロカルコンやジベンゾイルケトンを始めとして全てが狭義のフラボノイドからなるのに対して、G. uralensis、G. glabraにはイソフラボノイドを主体とした成分が含まれている。本研究において研究対象とした旧ソ連産甘草はG. glabraを基原とするものであるが、RL-Aを始め主成分はヘテロ環が還元されたイソフラボノイドである。今年度の研究では旧ソ連産甘草の微量成分の探索を行ったが、イソフラバノン2種(RL-Q、RL-R)と3-アリルクマリン1種(RL-U)の新規成分を得、これらはいずれもイソフラボノイドである。RL-Uはイソフラベン誘導体であるglabrene、2-アリルベンゾフラン誘導体であるRL-Mと同じ官能基を有し、ヘテロ環部に構造的相違がある。RL-Mは本甘草に含まれる他のイソフラボノイドとは異なりC6-C2-C6骨格を有し、ヘテロ環炭素が一つ少ない。マメ科起源の2-アリルベンゾフランの生合成について筆者はイソフラベンの2'位の酸化的脱離により生成するという仮説を提唱している10)が、同じ官能基を有するイソフラベン、2-アリルベンゾフラン、3-アリルベンゾフランが共存することが明らかになったことはこの仮説を傍証するものとして興味深い。クロマン誘導体であるRL-Vは天然からはほとんど単離の報告がなく、また極微量であるため真の二次代謝物であるか疑わしい。おそらく主成分であるglabridinが菌類などにより代謝をうけたものであろう。
以上、旧ソ連産甘草には極めて多様なフェノール性の二次代謝成分が含まれていることが明らかになった(Chart 1)。一般に単純フェノール類には殺菌作用があるので消毒薬として用いられるが、毒性が強く内用薬として用いるには不適当である。これに対して甘草に含まれるフェノール性成分はcomplex phenolであり、たとえばglabridinはレゾルシノールに
chromenochromaneという大きな疎水性の置換基が結合したものと見ることができる。このような部分構造の存在により本来毒性の強いフェノールの作用が軽減されていると思われる。本研究で得た知見によれば抗菌作用
に関しては特定の活性成分があるのではなく、類縁化合物の集合体として作用を呈することがわかる。すなわち、主成分のglabridinを始め精製成分のいずれも粗抽出物と比べて比活性は大差はない。このことは甘草粗抽出物を抗菌剤として利用するのが適当であることを示唆する。最近では生薬を治療薬として積極的に活用しようという傾向があるが、
イチョウ葉エキスなどいずれの場合も精製成分ではなく
粗抽出物を対象としていることは興味深い。
次に抗酸化作用について考察する。特に脂質過酸化は複雑なプロセスであり、過酸化の度合はイニシエーションメカニズムに依存し、酵素的あるいは非酵素的メカニズムのいずれかである。一般に抗酸化剤といわれるものはフリーラジカルの捕捉、触媒金属イオンに対するキレート化など単純なあるいは複合メカニズムにより過酸化過程に影響を及ぼす一群の物質である。鉄イオン依存の脂質過酸化は当然のことながらこれをキレート化する基質により阻害を受け、オルトジヒドロキシ基やケトンとキレートする水酸基を有する化合物などの抗酸化活性の一部はこのメカニズムにより説明できる。11)特に、ミトコンドリアにおける脂質過酸化は鉄イオンにより誘起されているので、この系におけるRL-Eの強い活性はカテコール基の存在によるものと考えられる。しかしながら、カテコールは酸化、とりわけフリーラジカルによる酸化に対しては鋭敏であることも考える必要があろう。これはカテコール水素の供与により比較的安定なオルトセミキノンラジカルが生成するからである。上述したように、カテコールは脂質過酸化の必須コファクターである二価鉄をトラップする能力があり過酸化過程を撹乱するが、むしろRL-Eの強力な過酸化脂質生成抑制作用は生成したオルトセミキノンラジカルの活性酸素失活能によるものであろう。RL-Eの場合にはカテコール基のオルト位に強い電子供与性のメトキシ基が存在するのでオルトセミキノンラジカルを更に安定化し抗酸化活性を更に高めるのに貢献していると考えられる。本研究ではミクロソームを用いた脂質過酸化抑制試験では鉄イオンに依存するアッセイ系の他に四塩化炭素やt-BuOOHで脂質過酸化を誘導するアッセイ系を構築し試験した。これによると、RL-Eはこれら鉄イオンに依存しない系では活性は大きく減少し、やはりカテコール基の存在が脂質過酸化抑制作用に大きく関わっていることが明かとなった。しかし、RL-Mには鉄イオンをキレートするような官能基は存在しないので別のメカニズムを考えねばならない。フリーの水酸基を有するフェノール性化合物は水酸基水素の供与で容易に生ずるフェノキシラジカルが酸素ラジカルと反応し失活させるので多少なりともラジカル捕捉活性を示す。一般に、 フェノキシラジカルは共役系における非局在化により安定化する。RL-Mは本甘草に含まれる他の成分とは異なり長い共役系を有し、また2'位に酸素官能基(クロメン環として環化)があるのでフェノキシラジカルを安定化する効果が期待できる。RL-Mがキレート性水酸基はないにもかかわらず強い抗酸化活性を示すのはかかるメカニズムによるものと思われる。また、RL-Mだけが顕著な抗スーパーオキサイドアニオン作用を示すのもこのような化学構造によるものと推定される。
抗脂質過酸化作用を示す天然物化合物は今日では数多く知られている。その大半はポリヒドロキシフラボノイドやタンニンなどどちらかといえば親水性の高いものが多く、生体膜を透過して組織内でいくつかの病気の原因となるフリーラジカルを不活性化するのは困難と思われる。その点甘草由来の成分は疎水性であり、生体膜に対する親和性が高いと考えられる。また、抗酸化作用成分も構造的のみならず、前述のように作用機序の点でも多様である。
前述したように、G. glabraを基原とする甘草は米国のデザイナーフーズ計画で最も癌予防効果の期待できるものとしてあげられている。本甘草の主成分であるglabridinやglabreneに抗変異原作用が見い出されている12)のがその根拠となっているようである。この両物質にはかなり強い抗酸化作用があるので、抗変異原作用はその連座によるのかもしれない。この点に関しては更に詳細な検討が必要である。