わが国最南端の南西諸島西表島では熱帯雨林を思わせるジャングルに覆われている。植生学的には本土のヤブツバキクラスと同等の照葉樹林であり、フタバガキ科などの高木林からなる東南アジア熱帯雨林とは質を異にするのであるが、ここでは熱帯雨林でよく見られるような生命力あふれる植物の営みを見ることができる。右写真はクワ科ガジュマルFicus microcarpa L.f.がコミカンソウ科アカギBischofia javanica Blumeの巨木を絞め殺そうとしてる光景である。ガジュマルなどイヌビワ(Ficus)属のある種のものはいわゆる絞め殺し植物として熱帯雨林ではおなじみのものである。鳥や動物によってイチジクに似たガジュマルの果実が食べられ、その種子がアカギの巨木の枝に落とされて着生し発芽する。やがて宿主の幹に沿って根(実際には幹の一部であるが)を下ろし、同時に長い気根を垂らし地面に達して支柱をつくる。かくして巨木に対する絞め上げが完成するのである。写真のアカギは樹高20メートル以上、胸高直径1メートルの巨木であるが、いずれは樹冠をガジュマルに覆われて枯死するであろう。絞め殺し屋は植物だけでなく大きな岩をも絞め上げる。左写真はその光景を移したものであり、熱帯植物の底知れぬ生命力を感じさせる。イチジク属の高木は俗に絞め殺し植物と総称されることが多いのであるが、実際に「絞め殺しの現場」を紹介したものはあまり多くないようである。筆者が西表島で目撃したものはいずれも熱帯地域に存在するものに引けをとらない立派なものであると思う。多分、画像として紹介するのは本ページが初めてではないかと思う。
われわれ温帯に住む日本人が想像する熱帯のジャングルは大きなつる性植物がはりめぐるものであろう。そのような熱帯雨林中の大型木本つる性植物をリアナと称するが、南西諸島を分布の北限とするマメ科ヒメモダマEntada phaseoloides (L.) Merr.もその一つである。「ヒメ」という名とは裏腹に巨大で、西表島には熱帯産にも負けないほど立派なモダマ属が生育している(左写真)。根元の直径は1メートル以上(右写真)あり、ここから巨大なつるが四方八方に広がり、おそらく長さは数百メートルに達するだろう。実はマメ科最大の長さ約1メートルになり、西表島では3月から4月に巨大な豆果を見ることができる。
以上の光景を見るにはジャングル内に入らなければならない。時に毒蛇や毒虫、あるいはかぶれを起こす有毒植物も多いので、フィールド経験の豊かなガイドが必須であろう。モダマの場合は湿地に生えることが多いのでぬかるみに入るのを覚悟しなければならない。
以上のほか、熱帯植物のダイナミズムを感じさせるものに板根(buttress
root)がある。板根とは根が垂直かつ扁平に発育して地表に露出するものをいうが、熱帯雨林を構成する多くの種が板根化することが知られている。亜熱帯の西表島でアオイ科サキシマスオウHeritiera littoralis Dryand.の巨大な板根が観光ルートにものるほど一般によく知られているが(仲間川上流)、その他にもブナ科オキナワウラジロガシQuercus miyagii Koidz.やマキ科イヌマキPodocarpus macrophyllus (Thunb.) Sweet f. angustifolius (Blume) Pilg.などの巨木で板根を呈することが知られる。左写真の板根は上述の絞め殺し屋ガジュマルと同じ仲間であるギランイヌビワである。
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