北海道、本州、四国、九州の湖沼、水田、水路などに生える抽水性の一年草で東アジアに広く分布する。茎は横に這う根茎となって斜上し、葉が束生する。葉身は心形で上部は鋭頭、縁は全縁、質は厚く光沢がある。長い葉柄があるが、花柄の下部では短い。花期は8〜10月。花茎は葉より高く伸び、10〜20個以上の青紫色の美しい花を総状につける。花は一日花で、花序内に数花ずつ咲く。同属種にコナギがあり、万葉集にも詠まれ、古くは食用とされた。コナギについては拙著「万葉植物文化誌」を参照。ミズアオイの漢名は浮薔とされるが、明・王西樓輯「救荒野譜」(1510年序)に初見する。同書の和刻本では“ミヅナギ”の訓をつけるが、付属する図は明らかにミズアオイである。一方、貝原益軒著「大和本草」(1709年刊)は王圻編「三才圖會」(1609年刊)にある浮薔を引用し、水野元勝著「花壇綱目」(1664年序)に初見する“水葵”を浮薔に充てた。今日ではミズナギはコナギの異名とされ紛らわしいので用いられない。