【解説】 北半球の温帯〜熱帯に広く分布し、わが国全土の水辺や湿ったところに生える一年草。全体に無毛、よく分枝して節が膨れ、葉は短い葉柄があって膜質、両面無毛の披針形で、縁は全縁、先は尖り、基部はくさび形で互生する。花期は7~10月、花はややまばらな穂状花序を構成して垂れる。花被は淡紅色で4〜5裂する(→花の拡大画像)。果実は小さく濃褐色で光沢のない3稜形。いわゆる蓼は本種からでた栽培種である。名の由来は葉がヤナギに似ていることによるが、一般にはホンタデ、マタデの名の方が通じやすい。葉に辛味があり、芽タデを刺身のつまにしたり、アユの塩焼き用のタデ酢をつくるのに利用される。辛味成分はタデオナール(tadeonal)。本種に似た同属種にボントクタデがあるが、辛味成分を含まない(→関連ページ)。『神農本草經』の中品に蓼實として収載され、果実を薬用部位とする。万葉集に「吾がやどの 穂蓼古乾 摘み生し 実になるまでに 君をし待たなむ」(11-2759)と詠まれるように、古くは実のついた穂を香辛料・食用にした。本種の生態は多様であり、『本草綱目紀聞』(水谷豊文)に「フユタデ 水生ナリ 冬中アリ 至テ辛シ 柳タデノ如シ 水底ノ生 水上ヘハ不出 花赤シ」とあるフユタデは『新修本草』(蘇敬)の下品に収載された水蓼(『證類本草』巻第十一「草部下品之下」所引)に同じで、同書を引用して『本草和名』は「美都多天」の和訓をつけている。本草ではミズタデ(フユタデ)として区別するが、水中に生えて多年生となった個体でも植物学的には区別しない。北半球に広く分布する本種は西洋でも古くから利用され、『薬物誌』のUDROPEPERIに相当する。UDROPEPERI (“ὑδροπέπερι”)の“ὑδρο-” (hudro-)は古代ギリシア語で「水」を意味する“ὕδωρ” (húdōr)に通じ、それと「コショウ」を意味する“πεπέρῐ” (pepéri) との複合語に由来し、「水生のコショウ」の意となる。ディオスコリデスも「主に静止水域または緩やかに流れる水域の近くに生える」と記述しているので、東洋本草にいう水蓼の認識と変わらない。薬能については、種子をつけた枝葉は浮腫や頑固な硬いしこりを消し、打ち身を除くとある。乾燥して砕き塩やソースと混ぜればコショウの代用になるともいい、香辛料として用いた。