ヤナギタデ(タデ科)
Persicaria hydropiper (Polygonaceae)

yanagitade

→戻る(2002.9.19;相模湖町寸沢嵐)

【解説】 北半球の温帯〜熱帯に広く分布し、わが国全土の水辺や湿ったところに生える一年草。全体に無毛、よく分枝して節が膨れ、葉は短い葉柄があって膜質、両面無毛の披針形で、縁は全縁、先は尖り、基部はくさび形で互生する。花期は7~10月、花はややまばらな穂状花序を構成して垂れる。花被は淡紅色で4〜5裂する(→花の拡大画像。果実は小さく濃褐色で光沢のない3稜形。いわゆるたでは本種からでた栽培種である。名の由来は葉がヤナギに似ていることによるが、一般にはホンタデ、マタデの名の方が通じやすい。葉に辛味があり、芽タデを刺身のつまにしたり、アユの塩焼き用のタデ酢をつくるのに利用される。辛味成分はタデオナール(tadeonal)。本種に似た同属種にボントクタデがあるが、辛味成分を含まない(→関連ページ)。『神農しんのう本草經ほんぞうきょう』の中品に蓼實リョウジツとして収載され、果実を薬用部位とする。万葉集に「吾がやどの 穂蓼ほたで古乾ふるから 摘みおほし 実になるまでに 君をし待たなむ」(11-2759)と詠まれるように、古くは実のついた穂を香辛料・食用にした。本種の生態は多様であり、『本草ほんぞう綱目こうもく紀聞きぶん(水谷豊文)に「フユタデ 水生ナリ 冬中アリ 至テ辛シ ノ如シ 水底ノ生 水上ヘハ不出 花赤シ」とあるフユタデは『新修しんしゅう本草ほんぞう蘇敬そけいの下品に収載された水蓼スイリョウ(『證類しょうるい本草ほんぞう』巻第十一「草部下品之下」所引)に同じで、同書を引用して『本草ほんぞう和名わみょう』は「美都みづ多天たで」の和訓をつけている。本草ではミズタデ(フユタデ)として区別するが、水中に生えて多年生となった個体でも植物学的には区別しない。北半球に広く分布する本種は西洋でも古くから利用され、『薬物誌』のUDROPEPERIに相当する。UDROPEPERI (“ὑδροπέπερι”)の“ὑδρο-” (hudro-)は古代ギリシア語で「水」を意味する“ὕδωρ” (húdōr)に通じ、それと「コショウ」を意味する“πεπέρῐ” (pepéri) との複合語に由来し、「水生のコショウ」の意となる。ディオスコリデスも「主に静止水域または緩やかに流れる水域の近くに生える」と記述しているので、東洋本草にいう水蓼スイリョウの認識と変わらない。薬能については、種子をつけた枝葉は浮腫や頑固な硬いしこりを消し、打ち身を除くとある。乾燥して砕き塩やソースと混ぜればコショウの代用になるともいい、香辛料として用いた。