【解説】 ギリシア、エジプトほか地中海地方東部の原産といわれる多年草。茎の基部に近い葉は浅裂した単葉であるが、上部では羽状またはレース状の羽状で多くの小さな小葉に分裂する。花は複散形花序をなし、直径約3mmの白〜黄色の花を密につける。果実は成熟すると乾燥した長楕円形で湾曲した分離果で、長さは4~6mmになり、「アニス実」と称して第三~第五版局方および第一国民医薬品集に収載された。精油に富み、アニス油(主成分アネトール)の原料となる。『薬物誌』のANISON(附図)に相当し、薬用については体を温め、痛みを緩和し、利尿作用、食欲増進作用があるほか、飲み物に入れて摂取すると水腫による喉の渇きを緩和し、鼓腸、白帯下を止め、催乳作用があり、性行為を促進する媚薬となり、燻煙を鼻孔から吸入すると頭痛を和らげるなどとある。一般にはAnise(ラテン語ではAnisum)と呼ばれ、種小名に採用されているが、古代ギリシャ語名の“ἄνισον” (ánison)に由来する。属名の由来は同属植物を基原とするピンピネラを参照。江戸末期の1818年、大槻玄沢・宇田川榛斎の建言により、オランダより取り寄せた薬草60種の中に“Anys”すなわちアニスがあるので、わが国へ初めて渡来した確実な記録である(「洋舶盆種移植の記」)。
引用文献:References参照。