【解説】 中国原産の多年草で茎に4稜あり、稜部には逆刺がある。葉はやや長い葉柄があり、葉身は楕円形で縁に鋸歯があり、鋭頭。花期は7〜9月。茎の先に穂状花序をつけ、淡紫紅色の花を各節に輪生して咲かせる(→花の拡大画像)。根茎は巻貝のような形をした白色で、これを茹でるかあるいは塩漬けにして食用とする。名の由来は朝露葱の音読みを訛ったものという(『言海』)。これとよく似た“朝露草”という植物名が『毛吹草』(松江重頼、1638年)に「あだし野に 咲や電光 朝露草」(「五 夏」、貞継)と詠まれている。単なる文字として記録されているにすぎないからどんな植物かはわからないが、その手掛かりは『增補地錦抄』(1695年)に“てう露草”のラベルをつけた写実的な図絵があって、これによってアオイ科ギンセンカHibiscus trionumであることが知られる。おそらくこれに倣って“朝露葱”を創出したようだが、残念ながら現実の植物としての実態がない。俗間には朝露葱を中国名とする説が流布するが、無論、その証拠はなく誤りである。『遠碧軒記』(1675年)に「チヨロ木と云ものの根◽️この形なり、煮て茶うけにしてよし、唐物なり、千代老木と書けり、麥門冬の類なり、薺苨と云ふ説あれど不可なり、もと高麗ものなり」とあるのがわが国における文献上の初見であり、『和漢三才圖繪』(1712年)の“知也宇呂木”は“千代老木”を訛ったと考えられる。漢名は『救荒本草』(周定王、1406年)に初見する甘露兒であり、掲載する附図はチョロギの特徴をよく表す(巻八「菜部」)。一方、『本草綱目』(李時珍)は草石蠶を正名、『救荒本草』とは微妙に異なる甘露子を異名とした。草石蠶なる名は『本草拾遺』(陳蔵器、『證類本草』巻第十一「草部下品 一十一種陳藏器餘」所引)に初見し、その記載はチョロギとまったく合わないので、事実上、『本草綱目』に初見するといってよい。『農業全書』(1697年)は「甘露子」「草石蚕」「地瓜子」の名を挙げる一方で、和名を“ウロギ”として形態と栽培法を述べて栽培を奨励する。本邦の山野に自生するイヌゴマの仲間で、欧州にもカッコウチョロギという類縁種(現在は別属Betonicaに区別される)があって薬用とする。属名は古代ギリシア語の“σταχυς” (stákhus)に由来し、その意は“an ear of grain”、すなわち本種の穂状花序を「穀物(ムギ)の穂」に見立てた。因みに類縁種のカッコウチョロギは『薬物誌』のKESRON(附図)である。
引用文献:References参照。