チョロギ(シソ科)
Stachys sieboldii (Lamiaceae)

chorogi

→戻る(2013.6.27;武田薬品工業(株)京都薬用植物園)

【解説】 中国原産の多年草で茎に4稜あり、稜部には逆刺がある。葉はやや長い葉柄があり、葉身は楕円形で縁に鋸歯があり、鋭頭。花期は7〜9月。茎の先に穂状花序をつけ、淡紫紅色の花を各節に輪生して咲かせる(→花の拡大画像。根茎は巻貝のような形をした白色で、これを茹でるかあるいは塩漬けにして食用とする。名の由来は朝露葱の音読みを訛ったものという(『言海げんかい』)。これとよく似た“朝露草”という植物名が『毛吹草けふきぐさ(松江重頼、1638年)に「あだし野に 咲や電光でんこう 朝露草ちゃうろさう(「五 夏」、貞継)と詠まれている。単なる文字として記録されているにすぎないからどんな植物かはわからないが、その手掛かりは『增補ぞうほ地錦抄ちきんしょう(1695年)に“てう露草”のラベルをつけた写実的な図絵があって、これによってアオイ科ギンセンカHibiscus trionumであることが知られる。おそらくこれに倣って“朝露葱”を創出したようだが、残念ながら現実の植物としての実態がない。俗間には朝露葱を中国名とする説が流布するが、無論、その証拠はなく誤りである。『遠碧えんぺき軒記けんき(1675年)に「チヨロ木と云ものの根◽️この形なり、煮て茶うけにしてよし、唐物なり、千代老木と書けり、麥門冬の類なり、薺苨と云ふ説あれど不可なり、もと高麗ものなり」とあるのがわが国における文献上の初見であり、『和漢わかん三才さんさい圖繪ずえ(1712年)の“知也宇チヤウ呂木ロギ”は“千代老木”を訛ったと考えられる。漢名は『救荒きゅうこう本草ほんぞう(周定王、1406年)に初見する甘露兒カンロジであり、掲載する附図はチョロギの特徴をよく表す(巻八「菜部」)。一方、『本草ほんぞう綱目こうもく(李時珍)草石蠶ソウセキサンを正名、『救荒本草』とは微妙に異なる甘露子カンロシを異名とした。草石蠶なる名は『本草ほんぞう拾遺しゅうい陳蔵器ちんぞうき、『證類しょうるい本草ほんぞう』巻第十一「草部下品 一十一種陳藏器餘」所引)に初見し、その記載はチョロギとまったく合わないので、事実上、『本草綱目』に初見するといってよい。『農業のうぎょう全書ぜんしょ(1697年)は「甘露子」「草石蚕」「地瓜子」の名を挙げる一方で、和名を“ウロギ”として形態と栽培法を述べて栽培を奨励する。本邦の山野に自生するイヌゴマの仲間で、欧州にもカッコウチョロギという類縁種(現在は別属Betonicaに区別される)があって薬用とする。属名は古代ギリシア語の“σταχυς” (stákhus)に由来し、その意は“an ear of grain”、すなわち本種の穂状花序を「穀物(ムギ)の穂」に見立てた。因みに類縁種のカッコウチョロギは『薬物誌』のKESRON(附図)である。
引用文献:References参照。