エビスグサ(マメ科)
Senna obtusifolia (Fabaceae)

ebisugusa

→戻る(2006.7.29;帝京大学薬用植物園)

【解説】 熱帯アメリカ原産といわれ、草丈は70〜150cmほどに達し、茎に稜がある。葉は2〜4対の小葉から構成される羽状複葉で互生し、小葉は倒卵形で葉先にわずかな突起がある。夕方になると葉を閉じる性質がある。茎や葉を揉むと不快臭がある。わが国では1年草となって花期は7〜8月、葉腋から花茎を伸ばし、1〜2個の黄色い花を下向きにつける。花弁は5枚、雄しべは10本あるが、いずれも不揃いである。熟すと細長く湾曲した六角柱形の莢果きょうかをつける。種子は不規則な六角形で光沢があって堅い。近縁種ホソミエビスグサSenna toraとともに種子を決明子ケツメイシと称して緩下、利尿、強壮薬とする。成分としてエモジンなどのアントラキノンを含む。ホソミエビスグサと本種は形態的に酷似するが、小葉の先端に突起がなく丸いかわずかにへこむので区別できる。その他、同属でよく似た種にハブソウがあるが、いわゆるハブ茶は本来は本種エビスグサの種子でつくるものである。和名は夷草えびすぐさで、異国から導入されたのでかかる名が付けられたと推定されるが、『本草ほんぞう和名わみょう』に「決明 和名衣比須ゑびす久佐ぐさ」とあり、平安時代の古文献にその名を見る。しかし今日いうエビスグサは新大陸原産であり、古代の東アジアに知られていなかったはずだから、古代の決明の基原は必然的に熱帯アジア原産とされるホソミエビスグサとなる。古名と外来種の名前が同じため、新大陸産の本種がわが国に渡来した時期を突き止めるのは困難であるが、通説は江戸中期の享保年間とする。因みに、漢名の決明は『神農しんのう本草經ほんぞうきょう』の上品に収載される由緒ある薬物である。属名は中世ラテン語の“sena”で、アラビア語の“sanā”に由来する。古くからユナニーアラビア医学の妙薬として繁用された薬草がSenna acutifolia (syn. Cassia acutifolia)であり、Alexandrianアレキサンドリア Sennaセンナと呼ばれた。欧州では『薬物誌』にあるKASSIAをセンナに充てる研究者が少なくないが、ディオスコリデスが「樹皮の厚い小枝とコショウに似た葉をもつ」と記述するKASSIAの特徴は、センナとはまったく相入れず、シナモンの1種と考えるべきである。種小名はラテン語で「鈍い」という意味の“obtusus”に「葉」を意味する“folia”(女性形)との複合語に由来し、鈍頭の葉を表す。
引用文献:References参照。