オランダセンニチ(キク科)
Acmella oleracea (Asteraceae)

orandasennichi

→戻る(2004.8.26;帝京大学薬用植物園)

【解説】 原産地不明の多年草。旧学名はSpilanthes acmellaとされていた。葉柄は長さ2~6.4㎝、狭いよく がある。葉身は卵形~三角形で長い葉柄があり、無毛~ごくまばらに軟毛があり、通例、両面とも無毛、基部は切形~短い漸鋭尖形、縁に鋸歯、先は短い尖鋭形~普通鋭形。花期7~8月で、茎先に筒状花のみから構成されるの頭状花序をつけ、黄色と褐色の小花が400~600個密生(→花の拡大画像、褐色の小花はつぼみで満開になると花序全体が鮮黄色に転じる。辛味成分スピラントール(Spilanthol)を含み、辛味がある(→関連ページ。観賞用として栽培するが、花、葉を香辛料とする。和名はオランダから伝わり、ヒユ科センニチコウGomphrena globosaに似た植物という意で、別名のハトウガラシは葉に辛味成分が含まれ、香辛料ときに薬用とされた(後述の伊藤圭介によれば、鵞口瘡がこうそうを治すに奇効があるという)。花序がすべて黄花のものをキバナオランダセンニチと称し、旧学名ではSpilanthes acmella var. oleraceaと区別したが、新学名では区別しない。種小名の“oleracea”はラテン語で野菜を意味する“oleris”に由来する。属名は古代ギリシア語の極点あるいは極致を意味するἀκμή (akmḗ)に接尾辞“-ελλα (-ella)”を付したものに由来し、おそらく独特の辛味あるいは花序の形態に所以があるかと思われる。わが国への渡来は江戸後期で、1842(天保壬寅)年、伊藤圭介の門下生松㟢寛一が瓊浦たまのうら(長崎港)に来航した洋舶から入手した種子から育てた花付きの個体を描写した絵図はオランダセンニチと完全に一致する。植物名は「セリヤーハン」といい、「アルマグモクト」なる“蠻種の草”も同品であるとの記事も載せている(伊藤圭介『植物しょくぶつ圖説ずせつ雑纂ざっさん』249)。江戸末期には同好の士が薬物・植物などの珍品を持ち寄り、研究発表や情報交換をする「薬品会(物産会)」がしばしば開催され、1845(弘化二)年に京都で行われた異国草木会では「アルマグモクト」がオランダからの盆栽として出品され、出品目録にその名が残る。いずれの名もオランダ語のようであるが、伊藤圭介も“未考”と記すように、意味・由来はさっぱりわからない。あるいは「セリヤーハン」と「アルマグモクト」はそれぞれオランダセンニチとキバナオランダセンニチを表しているのかもしれない。
引用文献:References参照。