【解説】 欧州原産の伏地性の多年草。葉は互生し、二回羽状で細かく裂け、表面に綿毛があるもの、無毛のものがある。花期7~9月で、茎先に頭状花序をつけ、やや盛り上がった円盤状に密集した黄色の筒状花と、その周りを取り囲むまばらな銀白色の舌状花で構成される。乾燥した頭花をローマカミツレ花と称し、健胃、強壮、ヒステリーに用いる。芳香と苦味があり、ビールの苦味付けに利用することがある。全草を水蒸気蒸留して得た精油をローマカミツレ油と称し、リキュールや香水に利用する。精油成分はビサボラン、グアイアン系セスキテルペンからなるが、成分相はカミツレとかなり異なる。グアイアンセスキテルペンの一種で主成分の一つであるカマズレンは本種から製した精油に含まれるが、蒸留中に二次的に生成したものである(→関連ページ)。属名は、英語でカミツレを表すchamomileと同源で、古代ギリシア語の“χαμαίμηλον” (chamaimēlon)に由来する。“on the ground”の意である“χαμαί” (chamai)と“apple”の義の“μήλον” (mēlon)からなる複合語で、字義としては“earth-apple”すなわち「大地のリンゴ」という意味になる。そう呼ばれたのはリンゴに似た香りを醸し出すからという。種小名にラテン語で「高貴な」という意の“nobile”がつけられているのは、薬能がカミツレ(本種と区別して「ジャーマンカモミール」という)よりも優れていると信じられてきたからという。また本種の学名をAnthemis nobilisとする見解もあり、『薬物誌』ではカミツレとともにANTHEMISに含まれた可能性はないわけではない。しかし、ローマカミツレの自然分布は、全欧州に広く分布するカミツレに比べるとずっと狭く、フランス以西の欧州大陸とイギリス、それにアフリカ大陸のアルジェリアとモロッコ(古代では辺境とされたところ)に限られ、肝心のイタリア・ギリシアには産出しない(Kew Plants of the World Onlineによる)。ローマカミツレの薬能が評価されるようになったのは後世になってからであろう。『遠西醫方名物考』(巻六、1822年)に加密列とともに、オランダ語名の“Roomse kamille”(英語のRoman chamomileに相当)を音写した「羅謨設加密列」について記述し、これがわが国における本種の文献上の初見である。貴志忠美編著『竹園草木圖譜』(1840年代から1850年代に成立、カミツレの項を参照)はいわゆるカミツレに「尋常」、本種に「羅謨設」を冠して区別した。
引用文献:References参照。