トウモロコシ、コムギとともに世界三大穀物の一つで、原産地は中国雲南〜ミャンマーからインドアッサムに至る山岳地帯と考えられる。ただし最も古い稲作遺跡は揚子江中流部から発見されている。耐寒性のあるジャポニカ種subsp. japonicaと耐寒性が低く高温多湿の環境を好むインディカ種subsp. indicaの2亜種に大別され、交雑しても不稔性を示すほど分化が進んでいる。日本米はジャポニカ種であり、デンプン中のアミロースの割合が高く炊いても冷やすと堅くなる粳と、アミロースの割合が低く冷やしても粘り気のある糯の二つのタイプがある。本草で名醫別錄中品にある粳(稉とも表し、正字は秔でいずれも同音)は精米していない玄米をいい、日本薬局方では粳米と呼び、麥門冬湯・白虎湯・補肺湯などの漢方処方に配合する。本草和名では「粳米 宇畄之祢」と和訓をつけた。名醫別錄下品に稻米と収載されるものは今日の糯(穤とも表し、正字は稬でいずれも同音)に相当する。稻の同義として稌があり音は「と」あるいは「しょ」である。因みに本草でインディカ種に相当する名は秈であり、同音の籼に作り、しばしば稉(前述)に作ることもあるが、インディカ種にも「うるち」と「もち」のタイプがあるので混同されたと考えられる。詳細は拙著「 万葉植物文化誌」の「いね」あるいは「歴代日本薬局方収載生薬大事典」の「コウベイ」を参照。