中国、シベリア、朝鮮原産の多年草。花期は初夏。根を漢薬芍薬として鎮痙などの目的で用いる。成分としてペオニフロリン(paeoniflorin)を始めとするモノテルペン配糖体を含むほか、タンニンにも富む。一般用漢方製剤294処方中102方に配合され、葛根湯にも配合されているので典型的な漢方薬というイメージが強い。しかし、文選(6世紀)を紐解くと、「酸甜の滋味、百種千名あり」という意外な記述に遭遇する。そのほか、芸文類聚(7世紀)には「芍薬の醤」、「芍薬の羹」とあり、中国では調味料ないし食品として利用されたことがうかがえる。唐代の詩人柳宗元も「鼎前の芍薬五味を調へ 膳夫腕を攘ひて左右視る」と、シェフが忙しそうに芍薬で味付けをして鼎に盛り付ける様子を詠む。芍薬の効能は鎮痙・抗けいれん作用とされ、それゆえ漢方では芍薬甘草湯にこむら返りに対する効果があるとする。ところが神農本草経・名医別録のいずれもそれに関連する効能の記載はない。一方、西洋にも西洋芍薬があって大した薬能の記載はないがディオスコリデスの薬物誌(de Materia Medica)にも載る。薬物誌はイスラム世界に渡り、それをベースとしてユナニー医学が成立している。実は芍薬の鎮痙・抗けいれん作用はユナニーに由来し、それが中国に伝わって傷寒論の芍薬甘草湯に反映されたとも考えられる。名医別録にある犁食・餘容という芍薬の異名が何となく食品を彷彿させるのは、中国で芍薬はもっぱら香辛料とされたことを示唆し、薬用となったのは外国の影響と考えられる。