タンニン(tannins)とは何か?
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1.加水分解性タンニンと縮合型タンニン

 タンニン(tannin)と”はブナ科カシ類の皮など植物界に広く存在し、加水分解で多価フェノールを生じる収斂しゅうれん性の植物成分の総称”と一般の事典などには記述されている。英語で日焼けすることをsun-tannedというが、タンニンは語源的にこれと同じで「皮をなめすために使われる鞣皮じゅうひざい」を指し、有史以来、人類により利用されてきた。わが国には本格的な毛皮の文化は存在しなかったので身近な存在とはいいがたいが、毛皮を調製するにはタンニンは必須のものであることは今日でも変わりがない。鞣皮剤以外にもタンニンは染色用の媒染ばいせん剤、インキ製造用原料として重要であり、またタンニンより製造されるピロガロール(Pyrogallol)、没食子もっしょくしさん(Gallic acid)は医薬品、化学薬品の製造原料として重要である。タンニンは二次代謝産物であるが、化学的には一系統ではなく、加水かすい分解性ぶんかいせいタンニン(hydrolyzable tannin)と 縮合型しゅくごうがたタンニン(condensed tannin)という化学構造の根本的に異なる二つの系統に大別タンニンの構造式参照)される。加水分解性タンニンとは酸、アルカリ、酵素で多価フェノール酸と多価アルコール(糖など)に加水分解されるもので、分布は双子葉離弁花植物に局在する。多価フェノールとしては主に没食子酸およびその二量体にりょうたい(遊離状態では脱水環化して4環性のエラグ酸Ellagic acidとなる)の二つのタイプがあり、それぞれをガロタンニン(gallotannin)、エラジタンニン(ellagitannin)と総称する。ガロタンニンの例としてウコギ科ヌルデの葉にヌルデノミミフシアブラムシが寄生してできる虫こぶ五倍子ごばいしと称する)に含まれるタンニン酸がある。タンニン酸は塩基性医薬品とコンプレックスを形成し、医薬品の刺激性などを軽減するために用いられる。その例としてタンニン酸ベルベリンがあり、この場合、ベルベリンの強い苦味の軽減に用いられている。エラジタンニンの例としてフウロソウ科ゲンノショウコに含まれるゲラニイン(Geraniin)が挙げられる。ゲラニインは植物界に広く分布するが、ガロタンニンと比べると渋味はずっと弱い。
 一方、縮合型タンニンは複数分子のカテキン(d-Catechin、l-Epicatechin、l-Epigallocatechinの総称)が炭素-炭素結合(通例、カテキン骨格の4位と8位で結合、ナンバリングは右構造式を参照)で縮合したもので、双子葉植物のみならずシダ植物、単子葉植物に広く分布する。加水分解性タンニンとは異なり、酸・アルカリで加水分解はできない。したがって、冒頭で紹介した事典の記述は縮合型タンニンの存在を無視していることになる。実際に単離精製され構造決定されている縮合型タンニンはせいぜいカテキンの3量体までであり、オリゴマーやポリマーは単離精製が困難である。縮合型タンニンの中にはカテキンの3位の水酸基に没食子酸がエステル(ガロイル)として結合したものも散見される。タデ科ダイオウに含まれるラタンイン(Rhatannin)はl-Epigallocatechin)が9~10個縮合したものと推定されている。ダイオウにはそのほかl-Epigallocatechin)とd-catechinが縮合した3-O-Galloylprocyanidin B-1も含まれる(→タンニンの構造式参照)。ダイオウは有効成分であるセンノシドの作用に基づく瀉下作用があるが、大量投与すると共存するタンニンの収斂作用に基づく止瀉作用が顕在化するため、瀉下作用は弱まる。したがって、重篤な便秘には用いることはできない(→重要な漢方薬ダイオウについてを参照)。そのほか、縮合型タンニンを含む生薬としてケイヒがあるが、l-Epicatechinが2個縮合したProcyanidin B-2、3個縮合したProcyanidin C-1が純品として単離されている。Procyanidinはケイヒの類縁種であるセイロンニッケイCinnamomum verumニッケイC. sieboldiiなどにも含まれる。本邦ではニッケイの根皮をニッキと称し、ニッキ飴、ニッキ水などとして利用してきたが、シナモンの香りとともに甘味がある。この甘味成分はシンナムタンニン(Cinnamtannin B1、D1などからなる)と称する列記とした縮合型タンニンであり、Cinnamtannin B1ではショ糖の100倍の甘味があるとされる(→構造式は主な天然甘味物質を参照)。シンナムタンニンはProcyanidinと同様l-Epicatechinが3個縮合したものであるが、Cinnamtannin B1では2番目のカテキンの7位水酸基と1番目のカテキンの2位炭素との間でエーテル結合を形成しているのが特徴である。一般に縮合型タンニンは渋みがあるので、このような比較的微細な構造の違いで全く質の異なる味を示すことは興味深い。シンナムタンニンはニッケイのみならずケイヒにも含まれる。

2.タンニンの性質

 いずれのタイプのタンニンも分子内に多くのフェノール性水産基を含み、酸性有機物質として分子量がかなり大きな多価フェノールということができる。基本構造に違いはあってもタンニンは多価フェノールであることに基づく共通の性質がある。その一つは蛋白質など生体高分子成分の塩基性官能基に結合し凝集させる性質、すなわち収斂作用である。タンニンが皮なめしに使われてきたのはこの性質を利用したものである。また、食品の中にはタンニンを含むものもあり、タンニンを過剰に摂取するとその収斂作用の結果、便秘を起こす。つまりタンニンは便秘の原因物質の一つでもある。生薬の中には下痢止め薬として用いられるものがあるが、タンニンのこの性質を利用したものとして、わが国で古くから民間薬として用いられてきたゲンノショウコがある。前述したように、ゲンノショウコはガロタンニン(ゲラニイン)を重量比で約20%ほど含み、その強力な収斂作用で下痢を抑える。ゲンノショウコのタンニンはほかの多くのタンニンとは異なり渋味が少なく飲みやすいので、慢性の下痢に対して今日でもよく用いられる。ゲンノショウコは道端や草地に比較的普通に生えるので、一般の間では野生品を採集して用いることも普通に行われている。おそらく、野生品を採集して用いる薬用植物としてドクダミに次ぐものであろう。しかし、葉が有毒植物の多いキンポウゲ科植物、特にウマノアシガタに似ているので、その識別には植物学の知識を要する(→こちらを参照)

3.タンニン作用を示す低分子型ポリフェノール

 タンニンは簡潔に定義すれば”蛋白質と結合して凝集させる多価フェノール”であるが、一般に分子量の大きなものが多い。しかし、中には低分子量でも蛋白質との結合能を指標とするタンニン活性を示すものがある。いわゆるハーブとして知られるシソ科ローズマリーに含まれロスマリン酸(左構造式;Rosmarinic acid)がその典型であり、構造的にはカフェ酸(Caffeic acid)の二量体であって分子量は小さい。ロスマリン酸およびその類縁体はローズマリーのほか、シソウツボグサヤクヨウサルビアなど多くのシソ科植物に含まれるのでシソ科タンニンと称される。縮合型タンニンの構成単位であるカテキンは生合成的にはフラボノイドの一種であるが、単体でタンニン活性があるため、タンニンに含められ区別されることが多い。緑茶に含まれるエピカテキン(l-Epicatechin)およびエピガロカテキン(l-Epigallocatechin)の没食子酸エステルを緑茶タンニンと称するのもそのためである。茶葉はツバキ科チャノキの葉で、一般に緑茶、ウーロン茶、紅茶に大別され、それぞれ味、風味も異なるのであるが、成分相にも顕著な違いが見られる。ウーロン茶、紅茶には典型的な縮合型タンニンであるカテキンオリゴマーが含まれるのに対し、緑茶にはカテキンモノマーが主でオリゴマーはほとんど含まれない(→緑茶タンニン。同じ素材を用いているにもかかわらずこのような成分の差があるのは茶葉の処理法による。ウーロン茶、紅茶はそれぞれ茶葉を部分的に醗酵または完全醗酵させたものであり、酵素の作用(ペルオキシダーゼ)でエピカテキン、エピガロカテキンが酸化重合する((→紅茶、ウーロン茶のタンニン。一方、緑茶は新鮮葉を加熱処理しているので、酵素が失活して重合は起きず、その結果、成分は新鮮葉とほとんど変わらないのである。緑茶タンニンには強い抗酸化作用があり、また発癌予防効果があるとして期待されている。一般世間では、前述のシソ科ハーブに含まれるカフェ酸誘導体、茶に含まれるタンニンはしばしばポリフェノール(polyphenol)と呼称されることが多い。最近では健康食品の有効成分としてポリフェノールを標榜することが多いのであるが、必ずしもタンニンのみを指しているわけではない。多くの場合、タンニンの中でも分子量の小さなカテキンと非タンニン成分であるフラボノイドやナンキンマメに多く含まれるスチルベン系化合物レスベラトロール(Resveratrol)とその類縁体を含めてポリフェノールと称することが多い。植物化学、天然物化学の教科書ではポリフェノールという呼称を使うことはほとんどなく、特定のグループの物質群を指すことはない。ポリフェノールは有機化学で用いる多価フェノールの英語名であり、フェノール性水酸基を多く含む化合物を全てそう呼称しているにすぎず、2価フェノールであるカテコール、3価のピロガロールも含まれる。分子量の大きなタンニンは、一般に、粘膜に対して刺激性があり、また便秘を起こすので、健康のためとして常用するのは必ずしも好ましいものではない。したがって、少なくとも”いわゆるポリフェノール”とタンニンは区別すべきものであろう。
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