高等植物(種子植物、つまり花を咲かせて種をつける植物)の種を識別するには現在でも形態が最も有効な手段である。植物種の記載方法として、形態的特長を専門用語を用いて記載する記述式(→キキョウの例)と、写真やイラストで形態的特長を図示する図示法がある。最近では一般書として多くの植物写真図鑑が出版されているが、直感的でわかりやすいことは確かであるが微妙な特徴を表現するのに多くの画像を必要とし、結果として情報量が多くなってしまう欠点がある。右の写真はミズキ(上)とクマノミズキ(下)である(画像をクリックすると拡大する)が、全体のイメージがよく似ており、一般人には区別は難しいであろう。実際、両種の形態の違いは葉のつき方(葉序
)であり、写真でその違いを表現しようとすると更に数枚の写真を必要とする。しかし、両種の形態的差異を記述式で表せば、”ミズキの葉は互生
し、クマノミズキは対生する”となり、ここで学ぶ程度の形態の知識があれば容易に理解できる。記述式は形態学特有の語彙で記述されるので理解するには相応の専門的知識を必要とする欠点があるが、情報処理の観点からいえば情報量が
コンパクトでありデジタル化に適している。したがって記述式による植物形態の表現は今日でも重要かつ有用な方式であり、最近では両者の長所を取り入れた植物図鑑が主流となっている。特に一般向け植物図鑑に顕著であるが、写真を多用した図鑑では花や実ばかりが注目されがちで、その他の部位はあまり関心をもたれない。現実的にはミズキ、クマノミズキの例で明らかなように葉の形態、つき方だけでもかなりの種を識別できるのである。形態分類学というと一般にあまり面白味がないと考えられがちであるが、最も簡便な種の識別法として必要不可欠のものである。最近の山菜ブームで有毒植物を山菜と誤認して採集、摂食し中毒に至る事故も多発しているが、本サイトでは山菜と誤認しやすい有毒植物の区別ができる程度の植物形態学について解説する(→間違えやすい山菜、有毒植物はこちらを参照)。生薬学や天然物化学を専攻する研究者は時に研究試料をフィールドで採集する必要もあるかと思うが、ここで解説する程度の知識があれば相当数の植物試料を自前で採集することができるようになるだろう。