本邦全土のいたるところに生える1~2年草。葉は対生し、卵形で先は尖り全縁。花期は3~9月。ミドリハコベに似るが、全体として小型で茎が紫色を帯びるので、曖昧性を排するため、しばしばコハコベとも呼ばれる。類似種のウシハコベは花柱が5個で本種とハコベの3個と大きく形態的に異なる。ほかに同属近縁種にサワハコベ、ヤマハコベがある。「本草和名」に「蘩簍 和名波久倍良」とあるものは本種あるいはミドリハコベの古名であり、訛ってハコベに転じたと考えられている。ハクは綿布、ベラは群がるという意味の古語であり、細かい毛が密生している様(実際にはよく見ないとわからないが)を見立てて名付けられたという。一般にハコベの漢名として蘩蔞(出典:「名醫別錄」、「本草綱目」は同音で繁縷と表記する)を充てるが、前述したように、ハコベ(コハコベ)とミドリハコベを含めたものであり、かつては両種および同属近縁種は区別されていなかった。今日の中国ではミドリハコベを賽蘩蔞と区別する。もっとややこしいことに、「本草和名」は別に条出した鷄腸草にも“はくべら”の訓をつけるが、まったく類縁性のないムラサキ科キュウリグサのことである。ハコベとキュウリグサは花実のない茎葉の形態がよく似ているので古くは区別できなかったのである。詳細は拙著「和漢古典植物名精解」第22章第4節を参照。