生薬の形態による評価
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1.生薬の外部形態の観察

 生薬は乾燥品を主とするので、その外部形態を観察する場合、植物の生品を観察するのとは違った見方が必要である。例えば、葉や花の場合はしばしば湯通しにより軟化させたものを用いる。生薬は植物体の一部であるので、外部形態の観察では完全な基原の同定はまず不可能であるが、少なくとも正しい部位であるのかどうかは評価しなければならない。また、基原外の異物の有無も鑑別できるだけの技量が必要である。
 肉眼視あるいは低倍率の拡大鏡を用いた生薬の外部形態の観察のほか、色、味、匂い、触感などの官能情報も生薬の鑑別の有力な情報となりうる。何故なら、これらはいずれもその化学成分情報の反映と考えられるからである。独特の色があればそれは色素を多量に含むことによるし、甘味があれば多量の糖分か、甘味物質が含まれているはずだからである。(生薬の成分:色素、官能物質各リンク参照)匂いも揮発性の高い精油成分によるものが多い。精油は時間の経過とともに減少するので、匂いの強弱で品質の評価がある程度可能である。

2.生薬の内部形態の観察

 生薬内部の細胞レベルでの微細な形態観察は基原の特定にかなり有効である場合が多い。外部形態と比べて、内部形態には各植物種の形態的特徴がより顕著だからである。当然のことながら、生薬の内部形態の観察には光学顕微鏡を用いるが、試料の調製を含めてその詳細は鏡検として生薬試験法に定められている。
 各形態の生薬のうち、粉末生薬は生薬総則第2条に規定するように薬局方では別の各条として記載されている。粉末であるが故に肉眼による形態はまず不可能であるが、鏡検では外部形態の観察とは比較にならないほどの情報が得られ、基原の異なる粉末生薬の混合物であってもそれぞれの基原を特定することができる。ここに、基原の類似する同属生薬であるゲンチアナ末及びリュウタン末を例としてその鏡検法がいかに有効であるか例を挙げる。外部形態では鑑別困難でも鏡検ではかなりの形態的特徴の差が見られることがわかる。ここに示す鏡検図は東京薬科大学名誉教授下村裕子先生により提供されたものである。

1.ゲンチアナ末

GENTIANAE RADIX PULVERATA
Powdered Gentian

本品は「ゲンチアナ」を粉末としたものである。
性 状  本品は黄褐色を呈し、特異なにおいがあり、味は初め甘く、後に苦く残留性である。
本品を鏡検するとき、油滴(o)及び微細な針晶(cn)を含む柔細胞(p)、導管(v)及び仮導管、コルク組織(k)、シュウ酸カルシウムの結晶(多くは針晶cnである)を認める。導管は主として網紋道管と階紋道管で、径は20~80μmである。でんぷん粒は、通例、認められないが、極めてまれに単粒を認めることがあり、球形で径10~20μmである。

ゲンチアナ末鏡検

2.リュウタン末

GENTIANAE SCABRAE RADIX PULVERATA
Powdered Japanese Gentian
龍胆末

性状   本品は灰黄褐色を呈し弱いにおいがあり、味は極めて苦く、残留性である。
本品は「リュウタン」を粉末としたものである。
本品を鏡検するとき、油滴及び微細な結晶(cn、cr、cd)を含む柔細胞(p;pxは木部柔細胞)の破片、膜がコルク化して娘細胞に分かれた内皮(en)及び外皮(ex)の破片を認める。導管(v)は主として網紋道管と階紋道管(vc)で、径は20~30μmである。
(備考)
cn、cr、cdはそれぞれシュウ酸カルシウムの針晶、小板状晶、砂晶を表し、柔細胞(p)中にあるのは多くは針晶であるが、細胞外に離脱したものもある。

リュウタン末鏡検