【解説】 ユーラシア大陸原産の多年草。葉は花が果実をつけ枯れた後にフキ似た葉が出てくるが、名の前半部の“フキ”はこれに由来する。花期は2~4月で、葉より先に花茎を伸ばしてタンポポに似た黄色い頭花をつけ、熟すと長い冠毛をもつ痩果を結び風で散布され、名の後半部に“タンポポ”を付す所以である。花を款冬花、葉を款冬葉と称し薬用にする。含有成分はクロロゲン酸、ジカフェロイルキナ酸などのフェニルプロパノイド配糖体、フラボノイド、セスキテルペノイドなどである。第三改正薬局方ではファルファラ葉の名で収載された。近年、肝毒性のあるピロリジジンアルカロイドを含むことが明らかにされ注意喚起されている。漢名は『神農本草經』の中品に収載される款冬(欵冬とも表記する)である。『本草和名』では「也末不々岐一名於保波」の和訓をつけるが、『和名抄』では同じ“やまふゞき”の和訓ながら、「萬葉集に云ふ山吹花」という誤った注釈をつけてしまった。『薬物誌』のBECHIONに相当し、葉を潰して患部に付けると丹毒やあらゆる炎症を治し、乾燥葉を燃やして出る煙を吸い込むと、からぜきや呼吸困難によいと記述されている。因みに、“βήχιον” (bḗkhion)は古代ギリシア語で「咳」を意味する。属名はラテン語の「咳」を意味する“tussis”に「作用する」という意の“ago”から構成され、古来、「咳」の薬とされたことを表す。種小名はラテン語の薬名で、乾燥した葉を生薬ファルファラ葉(第三改正局方はこの名で収載)として用いることを暗示する。江戸末期の1818年、大槻玄沢・宇田川榛斎の建言により、オランダより取り寄せた薬草60種の中に“Haefblad”の名が見え、Tussilagoすなわちフキタンポポが初めて渡来した(『植物渡来考』所引、「洋舶盆種移植の記」)。わが国では小野蘭山ほか名だたる本草家が款冬の基原をことごとくフキに比定し、明治維新後になっても本種をファルファラ葉という洋名で局方に収載したことで明らかなように、中国本草の款冬に相当するという認識はなかった。それを改めて“ふきたんぽぽ”の和名をつけたのが牧野富太郎である(『頭註国譯本草綱目』第16巻「草之五 款冬花」牧野注)。
引用文献:References参照。