【解説】 地中海地方原産の常緑低木で、2017年まではRosmarinus officinalisの学名がつけられていたが、現在では別属のアキギリ(Salvia)属に統合され、種小名まで変更された。葉は対生して密に束生状につき、無柄~短柄、長さ2~4cm、幅は2〜5mmの革質。上面は緑色でやや光沢があって無毛、下面は短い綿毛が密生して白い。花期11~3月で白、ピンク、紫色の2唇形の花を咲かせる(→花の拡大画像)。全草を筋肉リウマチ、神経炎に外用する。葉をローズマリー葉と称し、皮膚刺激、疥癬の治療に用いるほか、精油(ローズマリー油)を多く含み香辛料として広く利用される。成分としてはカフェー酸二量体ロスマリン酸(Rosmarinic acid)を含み、低分子ながらタンニン活性を示す(→関連ページ)。典型的な西洋ハーブであるが、中国にも伝わって漢名を迷迭香といい、傍流本草書の『本草拾遺』(陳蔵器、739年)に初見する。現存書では『證類本草』巻第九の「一十種陳藏器餘」に収載され、「魏略云ふ、大秦國に出づ」という記載から、三国時代の魏代に欧州(大秦國とはローマ帝国のこと)より伝わった。『藝文類聚』の“魏陳王曹植迷迭香賦”に「西都の麗草を播き 青春に應へて暉きを發す 翠葉を繊柯に流め 微根を丹墀に結ぶ 繁華の速実を信じて 厳霜に凋られず 暮秋の幽蘭より芳しく 昆崙の英芝より麗し 既に經時して収采し 遂に幽殺し以て芳を增す 枝葉を去りて持御し 綃縠の霧裳に入れん 玉体に附き行止を以てすれば 微風に順ひて舒光す」(巻第八十一「藥香草部 迷迭」)と詠まれるように、当時の中国の王侯貴族に珍重され、蘭香を凌ぐほどの勢いであった。わが国では迷迭香を“マンネンロウ”と読ませている(Wikipediaによる)が、『本草綱目啓蒙』巻第十に「迷迭香 マンルサウ マンネンロウ」(小野蘭山、1803年)と出てくるが、蘭山はその語源に言及せず、一般には「万年朗」に由来するといわれる。すなわち「朗」は『説文解字』に「朗は明なり。月に从ひ良の聲。」とあることから、深読みして「月光のよく澄徹する意」と解釈し、本種が寒い冬でも葉が青々として鮮やかな紫色の花をつけ、しかも強烈な芳香をもつゆえにかくネーミングしたようである。わが国における文献上の初見は『草花魚貝蟲類冩生』(狩野常信、1680年)の巻二「三月」に写生図とともに「らうつまれいな 蘭名」と出てくる。オランダ語名はrozemarijnであるから、人づてに音写を繰り返した結果、「らうつまれいな」(新仮名遣い:ろうづまれいな)となったのであろう。常信の図はかなり写実的でローズマリーの葉や花(1個のみだが)の特徴を表し、延宝8(1680)年8月4日の日付が書き込まれているので、17世紀以前に渡来していたことがわかる。『物類品騭』(平賀源内、1763年初刊)では“ローズマレイン”とあって、よりオランダ語音に近いが、オランダ人から直接聞いたからかもしれない。『薬物誌』ではLIBANOTIS(附図)に相当し、体を温めて黄疸を治し、また疲労回復によいとある。種小名の“rosmarinus”については、ディオスコリデスはローマ人の呼称と記載しているので、ラテン語の「雫」を意味する“”rōsと「海」の意の“marīnus”からなる複合語で「海の雫」の意となる。本種の精油を見立てたと考えることもできるが、当時はまだ精油の製法は確立していなかった。因みに、LIBANOTISはギリシャ神話に登場するLibanus (“Λίβανος”)に所以がある。リバヌスは生まれる前から神殿で神に仕えていたが、一部の不信心な人々から嫉妬され殺されてしまい、大地の女神Gaia (“Γαῖα”)は他の神々を讃えて彼の名を冠した植物に変え、同様に神々に捧げた。すなわち、リバヌスが変えられた植物こそ芳香のある小さな低木ローズマリーだったというのである。この名はセリ科イブキボウフウの属名Libanotis(旧属名はSeseli)に採用されているが、実は『薬物誌』には別の同名品があり、イブキボウフウ属などセリ科を基原とする。以上の詳細は総説「カミツレ、サフラン、ローズマリーの渡来と語源」を参照。
引用文献:References参照。