セイヨウハッカ(シソ科)
Mentha x piperita (Lamiaceae)

seiyohakka

→戻る(2001.8.4;帝京大学薬用植物園)

【解説】 欧州原産の多年草。茎は1mほどまで伸び、葉とともに無毛である。葉は有柄で対生し、葉身は長さ約8cmの卵形~披針形、先は鋭形、基部は漸鋭尖形、縁に鋸歯があり、中脈・側脈ともに鮮明である。花期6~8月で、花は枝先あるいは葉腋に穂状になってつく輪状散房花序で、花冠は薄紫紅色の筒状〜漏斗状で4裂する。がくは筒状で4裂し、長さ2.5~4mm。雌しべは花冠から長く突き出るが、雄しべは突き出ない。一般にはPeppermintペパーミント、時にコショウハッカ(胡椒薄荷)と呼ばれる。全草にメントール(Menthol)を含み、葉を健胃、駆風に用いる。メントール含量は日本産ハッカに劣るが、香味で優れるとされ、歯磨き、菓子などの賦香料として利用される(→主な精油成分関連ページ)。『薬物誌』にEDUOSMOS EMEROS、EDUOSMOS AGRIOSとあるうち、ディオスコリデスは後者を「ローマ人は“mentastrum”と呼ぶ」と記述し、野生品はより葉が荒々しいともいうから、EDUOSMOS AGRIOSはスペアミント(AGRIOSは“άγριος”、“wild, fierce”の意)で、セイヨウハッカはEDUOSMOS EMEROS(附図)に相当すると考えられる[EMEROSは“ἥμερος” (hḗmeros)に通じ、“tamed, civilized, domesticated”の意がある]。薬能については、体を温め、収斂作用があり、酢に混ぜて服用すると、吐血を止め、回虫を殺し、性的欲望を促進し、ザクロの搾り汁とともに服用すればしゃっくり、嘔吐、癇癪かんしゃくを鎮め、また性交前に女性に適用すると避妊効果があるともいう。属名は古代ギリシア語の“μένθη” (menthē)に由来し、“μίνθη” (minthé;ミント)ともいい、ラテン語ではMenthaに転じた。ギリシャ神話では、冥界を流れるコキュートス川に住む美しい妖精Minthesミンテ (“Μινθη”)は、冥界の王Hadesハデス (ᾍδης”)に愛されて愛人となったが、彼の妻Persephoneペルセポネ (“Περσεφόνη”)によって本種に変えられたという伝説があり、属名はそれに因んでつけられた。前述のローマ名の“mentastrum”も同源であるが、“-astrum”は「不完全な類似性」を表し蔑称になるので、スペアミントはセイヨウハッカより下等視されたと考えられる。『薬物誌』は本種をhedyosmosヘディオスモス“ἡδύοσμος”)と称しているが、“sweet“の意の“ἡδύς” (hēdús)と“smelling”の意の“ὀσμή” (osmḗ)からなる複合語で、「甘い香り」を意味する。種小名は古代ギリシア語の“Πιπέρι” (pipéri)、ラテン語でいう“piper”すなわちコショウに由来する。
引用文献:References参照。