セイヨウオトギリソウ(オトギリ科)
Hypericum perforatum subsp. perforatum (Hypericaceae)

seiyootogiri

→戻る(2000.6.6;東京都薬用植物園)

【解説】 欧州中南部原産の多年草。茎に2稜があって直立し、上部でよく分枝し、根元は木質化する。葉は無柄で対生し、形は線形から楕円形、広楕円形、披針形と多様で長さは 0.8~3.5cm、幅は0.3~ 1.6cmとかなりばらつき、縁は全縁、光にかざすと多数の腺点が目立ち、縁に少数の黒点がある。花期7~8月。花は円錐花序となって、直径1~2cmの5枚の花弁をもつ橙黄色の花を多く咲かせる。蒴果さくかは長さ7~8mmの卵形で暗褐色。別名はSt. John'sセントジョーンズ wortワート、この名で抗うつ用サプリメントとしてよく用いられる。成分としてオトギリソウ属に広く含まれるヒペリシン(Hypericin)を含む。わが国各地で帰化するコゴメバオトギリは本種の変種にあたる。名は在来種のオトギリソウに対するもので、西洋産という意味。『薬物誌』のUPERIKON(附図)に考定され、薬能については尿作用があり、膣坐薬にすると通経を起こし、煎じてブドウ酒とともに飲むと、3日か4日ごとの発作を経て熱が下がり、種子を煎じて40日間飲むと坐骨神経痛が治り、葉・種子は火傷を治すとある。『薬物誌』にはまったく名の異なるASKURON (“ἄσκυρον”)があり、「大きさが異なり、枝が大きく、小枝が多く、紫色に見える小さな葉をつけ(葉を揉みつぶすと、色素のヒペリシンによって赤紫色になるから、先入観をもって記述したと思われる)、黄色い花を咲かせ、オトギリソウに似た果実は赤く、潰すと指が血で染まったようになる(果実も色素ヒペリシンを含む)」という記述から、オトギリソウ属(hypericum)の一種であることは間違いない。ディオスコリデスはASKURONの薬能については、果実を煎じて蜂蜜とともに服用すると坐骨神経痛に効き、胆汁(四体液病理説に基づく黄胆汁あるいは黒胆汁のこと)を多く排泄させると記載する。そのほか、ANDROSAIMON (“ανδροσαιμον”)、KORIS (“κορις”)と称する類品もあり、薬能はよく似るので、両品ともにオトギリソウ属の基原と考えられる。因みに、“ανδροσαιμον”は古代ギリシア語で「男性の血」を意味するといい、オトギリソウ属に共通する「つぶすと赤い汁が出る」ことを表した語と考えられる。ラテン語ではandrosaemumといい、同様の性質をもつ植物の学名に用いられる。また“κορις”は“cutting, gnawing”を意味し、「切ると血が出る」ことを連想するので、やはりオトギリソウ属の特徴に言及した名といえる。以上、『薬物誌』にはオトギリソウ属を基原とする薬物が4種も収載され、古代欧州において重要視されたことを示唆する。属名のHypericumは古代ギリシア語の“ὑπερικόν” (huperikón)に由来し、“hyper”の意の“ὑπέρ” (hupér)とEricaエリカ(ツツジ科の小低木で腎臓や泌尿器によいとされた)の意の“ἐρείκη” (ereíkē)からなる複合語といい、その薬能がエリカより優れていることを表すようである。“ἐρείκη”ではなく、「イメージ」の意である“εἰκών” (eikōn) に由来するともいうが、字義は今一つ明瞭性に欠ける。種小名は英語の“perforate”に通じ、「穿孔する、貫通する」の意と思われるが、葉を日にかざすと見える腺点(油点)を表すと思われる。英名のセントジョーンズワートは聖ヨハネの日(6月24日)の頃までに花が咲き、その日に収穫して乾燥品をハーブティーに利用したことに由来する。
引用文献:References参照。