ガウクルアは危険なエストロゲン作用物質を含む
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1.ガウクルアの基原はプエラリア・ミリフィカである

 「プエラリア(ガウクルア)」はタイ原産のマメ科植物Pueraria mirifica Airy Shaw & Suvatab.プエラリア・ミリフィカ)の塊根を基原とするものであり、その名の由来は基原植物の属名Puerariaに由来する。タイ北部からミャンマーの山岳地帯に生える落葉つる性木本であり、大きいものは100Kgに達するといわれる塊根は現地の少数民族の間で回春強壮薬として用いられてきた。また、食用にも供されるともいわれる。現地では「ガウクルア」(アルファベットではGuao KruaまたはKwao Keurと表記され、数種の発音の仕方があるようである)と称されているが、実際には基原の異なる種類のものがあり、白ガウクルア、赤ガウクルアなどと区別されている。このうち、回春強壮作用があるとされるのは白ガウクルアである。それまでしばしば誤認されてきた赤ガウクルアはマメ科Butea superba Roxb.を基原とするものでこれも薬用に供される。日本の山野に広く分布し、秋の七草の一つとして知られるクズはその学名をPueraria montana (Lour.) Merr. var. lobata (Willd.) Sanjappa & Pradeepと称することでわかるようにその同属植物である。クズの根を乾燥したものが生薬カッコンであり、葛根湯を始めとする多くの漢方処方に配合される漢方の要薬である。不思議なことにネット上でプエラリア(ガウクルア)を販売するサイトでPueraria mirificaをクズの近縁植物として紹介しているのは意外と少ない。

2.ガウクルアの含有成分

 Pueraria mirificaとクズは系統分類学的観点から近縁とはいえないのであるが、化学成分では多くの共通成分を含んでいる。クズ根の主成分は、プエラリン(Puerarin)、ダイズィン(Daidzin)を始めとするイソフラボン配糖体であり、その他、ダイゼイン(Daidzein)、ゲニステイン(Genistein)などのイソフラボンやクメスタン誘導体であるクメステロール(Coumestrol)などが含まれる(→植物の化学成分:イソフラボノイドを参照)。以上の成分はいずれもPueraria mirificaの根にも含まれ、これらイソフラボンが豊富に含まれることで「プエラリア(ガウクルア)」が健康増進と維持に効果があるとの売り文句とされているがこれについては別ページイソフラボンも過剰摂取すると健康障害を起こすで述べる。しかし、Pueraria mirificaに含まれ、クズに含まれない成分もある。それはミロエステロール(Miroestrol)と称する特異なイソフラボノイド系物質(イソフラボンではない!)で、強い女性ホルモン(エストロゲン)作用があり、その強さはエストラジオール(Estradiol)という卵胞ホルモン(女性ホルモン作用を有するステロイドホルモンの一種)やその他治療用エストロゲン薬物と同等である。Pueraria mirifica根におけるミロエステロールの含量は0.002%程度と高くはないのであるが、ミロエステロールより更に強力とされる類縁物質も最近単離されているので、Pueraria mirifica根の総ホルモン活性は相当強いものと考えてよいだろう。これほど強い女性ホルモン活性を有する植物成分はそうあるものではなく、Pueraria mirifica根は1935年頃に欧州の科学者の注目するところとなり、後にミロエステロールと命名された活性物質の構造は1960年に決定され、同時に医薬としての応用を試みるべく臨床試験も英国で行われている。しかし、ミロエステロールはエストロゲンとしての作用はエストラジオールに匹敵するほど強いのであるが、遅効性、持続性という薬物特性により医薬としての応用は断念されたのである。つまり、ミロエステロールは服用してもすぐに効果は現れず、また服用を中止してもすぐにその効果がなくならないという厄介な特性が敬遠されたのである。その後、Pueraria mirifica根は科学者の間では二度と顧みられることはなかった。「プエラリア(ガウクルア)」の販売サイトではしばしば次のような宣伝文句を見るが、必ずしも事実を正しく伝えていないのでその実態を記載しておく。

1.「プエラリア(ガウクルア)」に豊胸効果があることが臨床実験で証明されている
 ミロエステロールほど強力なエストロゲン作用物質が含まれるのであればその効果で胸が大きくなっても不思議ではない。女性ホルモンには女性的な体型をつくる効果があり胸が盛り上がるのもそのためである。もともと男性で性転換した人たち、すなわちいわゆる「ニューハーフ」といわれる人たちが豊かな胸を維持するためにホルモン療法を受けているのは衆知の事実であり、このことは驚くにあたらない。しかし、ホルモンを投与すれば必ずしも胸が大きくなるわけではない。胸が未発達の女性ではもともと女性ホルモンの分泌が不十分なのでホルモン投与で豊胸効果があるが、一方、十分に発達した胸をもつ女性ではその効果はあまり期待できないであろう。また、ミロエステロールは生体に取って異質な物質(xenobiotic)なので、「プエラリア(ガウクルア)」を服用することは本質的には環境ホルモンに曝されることに等しいことを理解する必要がある。
2.世界で最も権威ある学術誌の一つ「ネイチャー」にも発表された
 Pueraria mirifica根から単離抽出されたミロエステロールの構造決定に関する論文が「ネイチャー」に発表されたのは事実であるが1960年のことである。前述したように、当時、エストラジオールに匹敵する活性を持つエストロゲンが植物(民間薬)から得られたとして注目を集めた。しかし、これが40年以上前であることを明言したサイトは皆無であり、それが最近、しかもタイの研究者(当地の“一流大学”在籍という)が発表したかのような記述がされているのは問題である。「ネイチャー」に発表されたにもかかわらず、その後、医薬としての開発は前述したように断念され科学者の間で話題になることはなかった。したがって、Pueraria mirifica根が「プエラリア(ガウクルア)」の名のもとにサプリメント市場に登場したのは薬学の専門家として驚愕以外の何者でもなかったのである。
3.タイ政府がガウクルアの輸出を規制しているので自由に入手できない
 多くの熱帯圏諸国と同様、タイ政府も自国産植物資源から創製される医薬が外国製薬会社によって独占されるのを恐れて植物資源の流出に厳しい規制を設けている。これはPueraria mirificaに限らず全ての植物に適用されている。最近、先進国製薬企業で発展途上国の植物資源について特許権を取得しようとして激しい非難を浴びて断念するケースが続発しているのはかかる事情によるものである。わが国でもある化粧品メーカーがインドネシア生薬で得た知見をもとに特許権を取得しようとしたが、現地のNGOの猛反発に会い断念した例がある。現在では生物資源も知的所有権と対象となるが、原産国の意向は大きくなる一方である。