「プエラリア(ガウクルア)」はタイ原産のマメ科植物Pueraria mirifica Airy Shaw & Suvatab.(プエラリア・ミリフィカ)の塊根を基原とするものであり、その名の由来は基原植物の属名Puerariaに由来する。タイ北部からミャンマーの山岳地帯に生える落葉つる性木本であり、大きいものは100Kgに達するといわれる塊根は現地の少数民族の間で回春強壮薬として用いられてきた。また、食用にも供されるともいわれる。現地では「ガウクルア」(アルファベットではGuao KruaまたはKwao Keurと表記され、数種の発音の仕方があるようである)と称されているが、実際には基原の異なる種類のものがあり、白ガウクルア、赤ガウクルアなどと区別されている。このうち、回春強壮作用があるとされるのは白ガウクルアである。それまでしばしば誤認されてきた赤ガウクルアはマメ科Butea superba Roxb.を基原とするものでこれも薬用に供される。日本の山野に広く分布し、秋の七草の一つとして知られるクズはその学名をPueraria montana (Lour.) Merr. var. lobata (Willd.) Sanjappa & Pradeepと称することでわかるようにその同属植物である。クズの根を乾燥したものが生薬カッコンであり、葛根湯を始めとする多くの漢方処方に配合される漢方の要薬である。不思議なことにネット上でプエラリア(ガウクルア)を販売するサイトでPueraria mirificaをクズの近縁植物として紹介しているのは意外と少ない。

Pueraria mirificaとクズは系統分類学的観点から近縁とはいえないのであるが、化学成分では多くの共通成分を含んでいる。クズ根の主成分は、プエラリン(Puerarin)、ダイズィン(Daidzin)を始めとするイソフラボン配糖体であり、その他、ダイゼイン(Daidzein)、ゲニステイン(Genistein)などのイソフラボンやクメスタン誘導体であるクメステロール(Coumestrol)などが含まれる(→植物の化学成分:イソフラボノイドを参照)。以上の成分はいずれもPueraria mirificaの根にも含まれ、これらイソフラボンが豊富に含まれることで「プエラリア(ガウクルア)」が健康増進と維持に効果があるとの売り文句とされているがこれについては別ページ(イソフラボンも過剰摂取すると健康障害を起こす)で述べる。しかし、Pueraria mirificaに含まれ、クズに含まれない成分もある。それはミロエステロール(Miroestrol)と称する特異なイソフラボノイド系物質(イソフラボンではない!)で、強い女性ホルモン(エストロゲン)作用があり、その強さはエストラジオール(Estradiol)という卵胞ホルモン(女性ホルモン作用を有するステロイドホルモンの一種)やその他治療用エスト
ロゲン薬物と同等である。Pueraria mirifica根におけるミロエステロールの含量は0.002%程度と高くはないのであるが、ミロエステロールより更に強力とされる類縁物質も最近単離されているので、Pueraria mirifica根の総ホルモン活性は相当強いものと考えてよいだろう。これほど強い女性ホルモン活性を有する植物成分はそうあるものではなく、Pueraria mirifica根は1935年頃に欧州の科学者の注目するところとなり、後にミロエステロールと命名された活性物質の構造は1960年に決定され、同時に医薬としての応用を試みるべく臨床試験も英国で行われている。しかし、ミロエステロールはエストロゲンとしての作用はエストラジオールに匹敵するほど強いのであるが、遅効性、持続性という薬物特性により医薬としての応用は断念されたのである。つまり、ミロエステロールは服用してもすぐに効果は現れず、また服用を中止してもすぐにその効果がなくならないという厄介な特性が敬遠されたのである。その後、Pueraria mirifica根は科学者の間では二度と顧みられることはなかった。「プエラリア(ガウクルア)」の販売サイトではしばしば次のような宣伝文句を見るが、必ずしも事実を正しく伝えていないのでその実態を記載しておく。